中村好至恵 山の絵ギャラリー
2024年秋 信州でふたつの「山の絵」展
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中村好至恵さんのこと 長沢洋 |
白山書房の『山の本』にあった山のスケッチとそれに添えられた小文、それが中村好至恵(よしえ)さんの名を知った最初だった。画才が乏しいというより皆無の私は、絵を描く人をほとんど崇拝に近い尊敬の思いでみる。中村さんは生年月日が私とおそろしく類似した数字の並びを持つ人である。ほとんど同じ星の下に生まれたというのになんという違いだろう。 物心ついたころから絵筆を放したことのない中村さんが山の絵を専門に描きはじめたのは、美大卒業後10年近くもたったころ、ベルギーの友人を訪ねた折、スイスアルプスに足をのばした際だったという。これだと納得できるモチーフがそのときに決まった。より対象に迫って描くために、今に至る山歩きがはじまる。 山が好きで歩いているうちに、この風景を描きたいと絵筆をとるようになる人がこの世にはたぶん多いと思う。その点、中村さんはまず絵ありきであるところが違う。この後先の関係は重要である。山が好きなだけで、描かれた山の絵が芸術になるならこんな簡単な話はないが、残念ながらそんな幸せな例はほとんどない。あてどなくさまよっていた表現したいという狂おしい魂が適確なモチーフと合致したときに真の絵画芸術は生まれるに違いないのである。 中村さんがロッジのお客さんとして現れたのは名を知ってからさほど時間がたたぬころだった。『山の本』の功徳である。同世代の気安さも手伝ってか意気投合、それからいったい何回泊まっていただいただろうか。去年(2004)の夏は日野春アルプ美術館で個展開催、私のロッジを宿舎に使ってもらい、「いってきます」「おかえりなさい」という日々が続いた。 個展に使うはずだったのを無理やり横取りして食堂の壁に飾ってある「丸尾山」の絵はもう1年半もお借りしたままになっていた。いつまでも同じ絵なのもという心遣いで、中村さんがつい先日(2005.7)、おもにロッジ周囲の山域の山々を描いた絵を8枚、車のトランクに積んできてくださった。去年の個展に出品されていた絵たちである。前の絵と入れ替えるために好みのを選んでもらおうと沢山持ってこられたのであった。 それらの絵を、どうせなら全部置いてもらえないかと私は言った。客室の廊下の壁が空いている、そこに飾らせてくれと。 貧相なロッジの廊下ではお気の毒だが、聞けばこれらの絵は箱に入れられて中村さんのアトリエの隣の部屋に置かれているという。あらゆる芸術は生まれながらに人に鑑賞されることを欲している。ならば小人数とはいえ、山の人々の集まるロッジに飾られても絵が泣くこともあるまいと思ったのである。 さいわい快諾をえられ、中村さんの絵がロッジの廊下に飾られることになった。 中村さんは対象の山を目の前にして描く徹底した現地主義である。人の滞在を容易に許さない場所、限られた画材、ならばその絵には陶酔と緊張がおのずと生まれる。このホームページにもネット上のギャラリーとして紹介するが、もとより、唯一無二なのが絵画の価値である。写真や複製で見て事足れりならば世の中に美術館はいらない。目の前に観る本物には格別の味わいがあるのは当然のこと。ぜひこのホームページ上でご縁があった方々にも本物をご覧いただきたいものだと思う。都合のつくときには宿泊者に限らず無料で鑑賞していただいている。 |