茅ヶ岳千本桜(若神子・茅ヶ岳

元日以来好天続きで、今年初の木曜山行の4日まで続くだろうかと心配したが杞憂に終わった。前日に風が存分に吹いてくれたおかげで、まったく風もない。要するに、今年始めての山行には願ってもない天気となったのであった。とはいっても、山の中で新年会をやろうというわけだから山行というほどでもない。

ロッジ山旅あたりで朝は零下10度まで冷えたから、目的地の千本桜が似たような標高だけに、寒さはどうかと案じられたが、そこは日照時間日本一の茅ヶ岳山麓の台地だけあって、まるで寒さなど感じられなかったのである。

ゴルフ場造設で移転した御嶽参道の石鳥居から歩きだすのが正月らしくて選んだ千本桜会場までの道のりは、旧い道をたどって1時間足らずだった。行きは斜面を適当に這い上がってショートカットするにしても、帰りにはれっきとした林道を歩けば、少々きこしめしても安全なのがいいところ。

千本桜では、三角点近くのもっとも展望のいい場所に陣取って、富士や鳳凰三山をはじめ、山山の大展望を肴に新年の宴は続いた。その間、山から下って来た人をひとり見ただけで、広大な台地を貸し切って、誰に気兼ねのない歓談ができたのである。


長谷寺〜大蔵経寺山(塩山・甲府北部)

木曜「健康」登山としては、寒い時季には甲府周辺の標高の低い山をのんびり歩きましょう、というので選んだのが大蔵経寺山だったが、しかし大蔵経寺からのルートではやはりちょっと面白くないと、山の東麓にある長谷寺(ちょうこくじ)からの周回コースを設定した。このルートは3年前にひとりで歩いてみたことがある。正月ということで、まずは女人高野長谷寺にお参りしてからの登山となった。

長谷寺からの周回ルートでは、道標に従って素直に登れば大蔵経寺山のずっと北に出てしまう。大蔵経寺山の頂上とされているところは、三角点信仰を絵に描いたような頂上で、すなわちすぐ北側にさらに高い場所があるにもかかわらず、ただ三角点があるというだけで頂上とされている。したがって一度通ればわざわざもう一度という場所でもないが、初めてだという人がいたので立ち寄ってみることにした。近道をしようと無理やり足場の悪い斜面を這い上がったが、これが「健康」登山だろうかという疑問の声があがった。ま、予期せぬことが起こるのが山のいいところである。

甲府市街北側の山の例にもれず、大蔵経寺山も樹林の雰囲気はいい。山火事跡もかなり植生が回復しているように見えた。稜線に出ると風があって、南風ではあったがだんだんと冷たくなってきて、のんびりと昼休みというわけにはいかなかった。

昨日の最高点906mには御料地境界点があって、それに「字深草山」と彫られているからだろう、深草山の文字がテープに書かれて木に巻きつけてあった。しかし私は岩堂峠南の1042mを深草山とするほうがいいと思っている(http://yamatabi.info/2014d.html#2014d2)。ここに初めて来た1994年には、東側が伐採直後で大展望があった。今では植えられたヒノキが育って、展望は皆無である。四半世紀とはそんな歳月なのだろう。

当時は少々藪っぽいところもあって道標も皆無だった、大蔵経寺山から続く稜線は完全に一般道となった。はっきりした一本道に目ざわりなくらいのテープがあって見識を疑うが、私のガイドブックに要害山から大蔵経寺山への案内をしたこともここを一般コースにしてしまった原因のひとつだからあまり大きなことは言えない。最初の版では道標もなく経験者向きとしたのを、何度目かの改訂では書き換えた経緯がある。

ただ径を歩いていればよかったのも906mまでで、ここからは一般道と別れていっぱしの藪尾根をたどる。難しくはないが、地形図なしというわけにもいかない。地形図で沢沿いに通じる破線があるが、ほとんど跡形はない。御料地だったからか、ところどころの自然石に境界を現す字が彫られているのが面白い。尾根上に大岩が累々とあるのは、兜山などの稜線と似ており、このあたりの地質の特徴なのだろう。

尾根筋はやがて車道に合流する。あとはいっさい車通りのない舗装路をぶらぶらと西日に明るい甲府盆地に向かって下るばかりだった。

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大蔵経寺山あたりの自然石に境界などを示す字が彫られているのを見るが、906m峰から東に派生する尾根にも岩にも多い。御料地の境を示しているのだろう。

そのひとつがこの写真で、「カウ」「境」「シヅメ」の文字が見られる。「シヅメ」は「鎮目」だろうが「カウ」は何だろう。「甲運村」の「カウ」だろうか。それにはちょっと位置的に変に思われる。

素人が彫ったものではなく、れっきとした石工を連れて行って彫らせたのだろう。この写真にある岩は人力ではおいそれと動かせるような岩ではないが、なぜ字が斜めになっているのだろうか。わざわざ斜めに彫ったわけでもあるまい。100年もたてば地面が動くのだろうか。考え出すとおもしろい。

淵ヶ沢山(長坂上条)

淵ヶ沢山に初めて登ったのは山村正光さんの古希のお祝いがこの山であったからだった(http://yamatabi.info/hutigasawa.htm)。その3週間前に生まれた我が家の娘が先日成人式だったのだからもう20年前のことになる。以来、この山の近所に越してきたこともあって、いったい何度登ったかわからない。木曜山行でも何度か歩いてきたが、その最後も4年前になる。地元の山にご執心のSさんのリクエストもあって久しぶりに計画したのだった。

20年の間には植林が伸びて眺めを隠してしまった場所はある以外に、ほとんど印象は変わらない。さほど登山者が訪れる山ではないだろうに、踏跡がしっかりしていて藪を分けるところがなく、さらにはただのひとつも目ざわりな赤テープの類がないのが美点である。そんなものがなくとも道筋には恩賜林界の石標が点々とあるので困らない。いつぞやはこの山の頂上にも無粋な山名標が設置してあったので掃除したことがある。地形図で山に登る者として三角点には敬意を表するしかないが、それ以外は何もない頂上をもって最上としたい。

ちょうど正午にたどり着いた頂上は、それこそ三角点でもなければただの平坦地だが、こういった茫洋とした樹林の頂上も好ましい。枝越しに鳳凰山を見上げる陽だまりで昼休みとした。

頂上から北に下り、馬蹄形の周回コースをとることが最近では多かったので、今回は自分の興味を満足させるべく、ひとつ西のピークから北に下ってみることにした。そのため下山口にあらかじめ自転車をデポしておいた。地形図で見るとおり快適な斜度だが、この山域に多い崩壊地もあって、これがさらに稜線を侵食すれば通過が難しくなるかもしれない。樹林越しとはいえ甲斐駒がぐっと近くに見られるのは冬枯れの時季ならではである。下部では旧い径が残っており、わりと苦労させられることが多い車道への下降点でもすんなり降りられた。

西向(若神子・韮崎)

先週、淵ヶ沢山に登ったとき、小武川を隔てて西向が見えた。荒倉山北の881.6m三角点峰である。もうそのときには数日後の雪の予報が出ていたから、もしある程度の降雪になれば、次の予定のトヤンハチは厳しいかもしれない、ならば久しぶりに西向に登ってもいいかなと考えた。この山に木曜山行で登ったのはちょうど6年前で記憶も薄れている、再訪するのもいいだろう。http://yamatabi.info/2012a.html#2012a4

予報通り、この冬初めての大雪となって、信州方面にスノーシューでもいいかなとちょっと考えたが、ロッジあたりでもマイナス10度を下回るとあっては、スノーシューを楽しめるような山まで行けば寒気が相当に厳しいだろう、そのうえ風でもあればまるで苦行である。「健康」登山としては無理は禁物だと、自分たちの住処よりは標高の低い西向で楽しむことにしたのであった。

東京では半世紀ぶりという寒い朝、もともと寒い我々の地域では異常な低温とまでは言えないが、それでも相当な寒さではある。しかしロッジより500mも低い、登山口の持久神社まで下れば、寒いとはいってもたかがしれていた。

前回、尾根に登るのに使った鉄塔巡視路は斜面の崩落で消え去っており、立ち木をたよりに強引に尾根に取り付いた。尾根に上がってしばらく登れば、今の地形図にもある破線のとおりに径は頂上へと続いている。

積雪はたいしたことはないが、地面が凍っているので、急な場所では少々てこずることになった。降る方法は多々あるが、安全を期して平川峠経由で大回りして帰ることにし、頂上から南へ少し下った林の中で昼休みにした。

平川峠、円池、宗泉院を経由して持久神社まではかなりの大回りで時間はかかるが、宗泉院まではのんきに歩ける。途中で2頭のカモシカを見た。カモシカも個体数が増えて、こんな街の裏山にまで生息するようになったのだろうか。

宗泉院の東には、以前にはなかった池記号が地形図にある。むろん池は以前からあって、池畔で5年前に新年会をしたことがあるhttp://yamatabi.info/2013a.html#2013a1。宗泉院からはこの池を通って破線が持久神社へと続いているが、葉の茂る時季に歩くのは難しいかもしれない。池のまわりの樹林がいいので、緑の時季に行ってみたいとは思うが、荒倉山ではヒル注意報が出ている、湿気の多そうなこのあたりは、おそらくヒルが生息しているのではないだろうか。

この山にしろ淵ヶ沢山にしろ、また、荒倉山から南に連なる山々にしろ、標高のわりには、津金の山あたりを歩いているのとは違った山深さと重厚さを感じる。それはすぐ後ろに控えている南アルプスのせいであろう。

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