東西篭ノ登山(車坂峠

木曜山行で浅間連山に出かけたのは2008年の湯ノ丸山が初めてで、目新しい山が近所に少なくなったので、それではと群馬県境まで遠征してみようと出かけることにしたのだったが、行ってみれば、たとえば山梨県内でも道志や山中湖の山に出かけるよりはずっと距離が近いことがわかって、なんだ、そんなことならこっちのほうが新鮮でいいやと、わりと足しげく行くようになったのである。以来8年たつが、めぼしい山にはほとんど登ってしまった。

水ノ塔山と東篭ノ登山を縦走したのは湯ノ丸山の次にこの山域に出かけたときで、それも6年前のことになる。そのとき西篭ノ登山は面倒になって登り残したので、昨日はそれを目的に計画を立てた。調べたら偶然にも前回と1日しか違わない日で、やはりこの季節、わが頭の中は納涼の二文字しかないと見える。車が2000mの高みまで運んでくれる山はそうたくさんはない。

池の平から篭ノ登山だけでは遠路出かけるにしては簡単すぎるかと、三方ヶ峰も含めて歩こうかと当初考えていたが、ここは納涼物見遊山でいいではないかと考えなおして、結果的にはそれでよかった。

毎年天気が悪いイメージしかない七夕の日だった。久しぶりに木曜が好天の予報でそのとおり夏らしい好天の朝になった。下界は厳しい暑さになるという。ならばなお良し、うだる下界を睥睨して、こちらは山上の風に吹かれようではないか。

池の平の駐車場はすでに半分以上車で埋まっており、バスを降りた団体も出発しようとしていた。しかしその9割以上が池ノ平湿原や三方ヶ峰へ出かける人たちで、篭ノ登山への登山道に入るとすぐ静かになった。

東西篭ノ登山も数えられるくらいの人しかいなかった。北アルプスまではすっきり見えないが、遠く富士山まで指摘できたのはこの季節としては上出来で、むろん近所の山はすべて見えた。心配したのは虫だったが、うまい具合の風が吹いていて、涼しいうえに虫まで吹き飛ばしてくれた。

すっかり納涼して下山し、まだ午後早いうちに千曲川の対岸で浅間連山を望む露天風呂に浸かった。帰り道、小諸の気温の電光掲示は36度、ここでこの気温なら他ではどうだったのだろうと家に帰ってニュースを見たら、勝沼が38.8度で日本一の暑さだったそうな。

乗鞍岳(乗鞍岳)

木曜山行で乗鞍岳に登ったのは8年も前のことで、もうそんなにたったのかと驚かされる。そのときは乗鞍高原から畳平へ向かうバスが土砂崩れのために運休していることをバス停まで行って初めて知り、せっかくここまで来ていてもったいない、聞けば平湯からはバス便があるというので、安房トンネルを通って岐阜県から入山したのだった。

長野県側が通行できなければ入山者は半減どころではない。これが怪我の功名になって、ほとんど貸し切りのような状態で乗鞍岳に登ることができたのである。

昨日は、バスを使うにしても少しは変化を持たせようと、登りは肩の小屋入り口からとした。似たようなことを考えそうなものなのに、ほぼ満員の2台のバスからそのバス停で降りたのは我々と、スキーを担いだ人ひとりだけだった。夏スキーのメッカだとはいうが、今年の積雪はすでに例年の8月末くらいの量らしい。わずかに残った雪渓を滑っている人もあったが、これではさほど楽しめまい。

雪が少ないかわり、本来ならもう少し遅く咲くはずの高山の花が、肩の小屋までの登山道脇にはびっしりといっていいほど咲いていた。展望はほとんど楽しめなかった昨日だったが、花については満足できたのである。

肩の小屋からの登山道では、学校登山の中学生と出くわしたこともあって、すれ違った人は200人どころではなかっただろう。前回にしても、もしバスの運休がなければ似たようなものだったのだと思う。

展望がないので早々に下ったが、下る途中では雲が切れて展望も少し得られた。肩の小屋でおそい昼食としている間には雷が鳴り始め、これは来るかと急ぎ足で畳平へと向かう途中で激しいあられとなった。だが、畳平までは車道歩きなので助かる。

目まぐるしく変わる天気はさすが高山である。納涼どころか、すっかり身体を冷やしてしまったので、ふもとの温泉では珍しく長湯をした。

ツルネ東稜〜キレット小屋〜権現岳(八ヶ岳東部・八ヶ岳西部)

担当している『山梨県の山』(山と溪谷社)が新しくなるので、これまでの真教寺尾根を登って県界尾根を下るという、赤岳のコース設定を変えようと思った。このままだと日帰りではきついし、といって2日がかりだと短い感じがするのである。

むろんガイドブックのコース設定は一例なのだから、各自が勝手にアレンジすればいいわけだが、県別のガイドブックのなので一応県内で完結する必要があるのが辛いところ。となると真教寺、県界のどちらを登るにしろ、2日がかりとなれば選択肢はキレットに下る以外にないのである。となるとキレット小屋に泊まって権現岳を越える縦走になる。

その取材を兼ねて木曜山行で出かけたのは去年の初秋で、その際、たまたま我々だけの貸し切りだったこともあって、小屋番のKさんと親しくお話することができた。そんなことから、Kさんには仕事のオフシーズンに私のロッジに泊まってもらい、木曜山行で一緒に吉澤巌に登ったりもしたのである。http://yamatabi.info/2016a.html#2016a2

小屋で話しているとき、ツルネ東稜の話が出た。しっかりした径だという。そのルートがあるのは知ってはいたが、冬季に八ヶ岳主稜に登るバリエーションルートくらいにしか思っていなかったので、それ以外の季節に登ることは考えたことはなかった。しかしそれが登れるならキレットへは最短で、小屋一泊で赤岳か権現岳に登るには、我々の体力からすると好都合である。そこで、今年の小屋泊まり山行に、ツルネ東稜から権現岳に登る計画を立てたのであった。

今週初め、ぱっと夏空が拡がり、西日本には梅雨明け宣言が出て、ほどなく関東くらいまでは梅雨明けするだろうと思われた。余裕を持たせて3日間のどこかで行くことにしてあったが、そのどこでも、もうさほどの違いもあるまい、予報も晴れが続くようになっている。参加予定者に聞いたら、木金のほうが都合がいい人が多かったので、それに決めた。

ところが日が近づくにつれて予報が芳しくなくなってきた。もうそれでも出かけるしかない。遠方からの参加者を待って、美し森の上を出発したのは、すでに11時近くになっていた。雲は多いが、弱い日差しはある。

出合小屋までは地獄沢を何度となく渡ることになるが、これが増水していれば厄介なことになるだろう。ツルネ東稜がキレットからのエスケープルートにならないのは、要するにそれが理由であろうと思われた。エスケープする必要があるときは悪天だろうから、東稜は下れたとしても、その先で沢が増水していればどうしようもない。

沢沿いの径が長いが標高はたいして上がらない。その分、東稜に取り付いてからの急登といったらなかった。燕の合戦尾根どころではない。蒸し暑いせいもあってとんでもない量の汗が出る。ようやく傾斜が緩んだところで一休みしていたとき、突然天狗尾根が霧の中から現れて、やっと自分たちのいるところがどういう場所なのかわかった。しかしそれも一瞬で、再び霧が風景を隠した。

森林限界がすなわちツルネの一角であった。ここで一気に眺めが開けた。幸運なことには雲がかかっていたのは山梨県側だけで、長野県側は晴れていたのである。急登をこなした甲斐があったというもので、疲れの吹き飛ぶ一瞬とはこのことを言うのであろう。歓声があがる。雲が次々に流れ、山の風景をどんどんと変えていく。足元にはおびただしいコマクサが今が盛りと咲いている。これは、ここに長居をせずにはいられない。

風景を堪能したのち下ったキレット小屋では、すでに卓におつまみが並んでいた。ビールまで並んでいる。聞けば、越冬して期限のきたビールだからこれでよければ飲んでしまってもらえないかという。

「それじゃ悪いよ」と言いつつ、すでに指はプルトップにかかっているのであった。結局、十数本あった越冬ビールは力を合わせてすべて処理してしまった。

去年に続き、今回も我々の貸し切りで、余裕たっぷりに布団を引かせてもらい、ゆっくりと休ませてもらった。Kさん、ありがとうございました。

夜半、屋根を打つ雨音がしていたが、朝には上がって、出発時には完全にやんでいた。ツルネでは背後に赤岳も現れて、このまま天気はよくなるかと思われたが甘かった。権現岳への途中では雨具を取り出すことになった。以後、降ったりやんだり、大雨にこそならなかったが、下山するまで雨具をしまうことはできなかった。

高山の楽しみは森林限界を越えた稜線を眺めを楽しみながら歩くことにこそあって、その意味ではいかにも残念ではあったが、これも山歩きである。

十二山尾根を下るつもりだったが、この天気ではどうしようもない。三ツ頭からアトノ尾根を下ることにした。これを下るのは私にとってはほとんど四半世紀ぶりである。やたらと長く歩かされた印象があったが、こちらが若くなくなった分、もっと長く感じられた。

正午には下山、パノラマ温泉で山旅の疲れをいやした。

霧ヶ峰の防火線歩き(南大塩)

木曜山行前半最後は午後から納会を控えているので軽く高原歩きでもしようと行先は霧ヶ峰と決めていたが、霧ヶ峰といってもいささか広い。展望がある日なら多少にぎやかでも高いところを歩けばいいが、それがないならにぎやかな場所にわざわざ行くこともない。先日探ったばかりの防火線歩きでもしようと思っていた。

朝方の予報では午後から弱い雨が降るとのことで、それならと防火線歩きを選んだ。ぶらぶらと今や緑の盛りの径を行く。こんなところを選んで歩く人はいないから、終始誰に会うこともなかった。

午後になったら予報とは裏腹に晴れ間が広がるようになり、ロッジに帰ったら梅雨明けしたという。夕方からベランダでバーベキューをして納会の予定だったので、心配していたのは山よりはそちらの方だったが、いかにも梅雨明けを思わせる夏の空が暮れていくのを眺めながら、おおいに飲んで食って、今年前半の無事を祝うことができた。

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