こみやまかたばみ・ぎぼうし〈その2〉 

この6月末に約40年ぶりに八ヶ岳の硫黄岳に登った。その道すがらに、たくさん咲いていたのが、こみやまかたばみ(小深山片喰)の小さく白い花だった。

かたばみという名は、夕方になるとハート形で3枚1組の葉が各々半分にたたまれて、片方が食べられてしまったように見えるからだと聞いたことがある。

カタバミの仲間には、平地の街なかのどこにでもはびこる黄色い花のカタバミ、観賞用に輸入したものが野生化したピンクのハナカタバミやムラサキカタバミなど数種があり、誰の目にも触れやすい草である。

また、栽培種のものは属名オキザリス(Oxalis)で称ばれることもある。

子供の頃に、この酸っぱい葉を噛んだおぼえのあるある人もいるのではないだろうか。

わが家の隣でビストロを営むMさんは「オキザリスの葉っぱを採らせて……」と時折やってきて、庭にある野生化したハナカタバミの葉を何本か摘んでいく。その使いみちを聞くと、デザートに出すチョコレートケーキの皿の手前に、この長い茎つきの葉を添えると、とても引き立つのだということだ。

シュウ酸を多く含んだカタバミの葉で、金属を磨くとピカピカになる。「鏡を磨くと想い人の面影が表れる」という伝説もあって、この花の花言葉は「輝く心」なのだそうだ。


ぎぼうし(擬宝珠)については、こちらで、いわゆる山菜として扱われる若い葉(うるい)を紹介しているが、初夏から咲き始める花も、また食べることができる。

東京近くのどこの山でも見られる花だったが、近年は増えた鹿に喰われて、花どきまで生き残るものは少なくなってしまった。

このぎぼうしとは、伸びはじめた花茎の先端で、多くの蕾を中に包み重なりあって丸くふくらんだ苞の形が擬宝珠を思わせるので、その名がついた。

苞の擬宝珠がほどけて蕾が育つと、花は下から上へと順に咲きあがるようになる。濃淡の紫色が多いが、白い花のものもある。

この花や蕾を4、5輪ずつ茎についたまま折って、薄いころもの天ぷらにするもよし、1輪ずつにバラしたものを酢を落とした湯でさっとゆがいて冷やし、三杯酢などで和えるのもよいと思う。