せり・ゆきざさ 

せり(芹)については先に、水の汚れが気になるので、近年、山歩きでは摘んだことはないと書いたが、芹の香りと味は好きなので、売っている栽培物の田芹は割合よく食卓にのせている。

この売り物のせりは春たけなわになるとあまり見かけなくなるが、せりは本来は田植えが始まる前に畦にたくさん生えていて、野芹とも呼ばれ摘み草の対象だったのだ。

店で買ってくるせりは、たいてい根つきで束ねられている。秋田などでは、この白いひげ根が鍋物などに好まれるというが、根を食べないならば、茎を切ったあとの根を窓辺などで水栽培すると次々に新しい葉が伸びてきて、冬の間、2度3度と使うことができる。

わが家では、この根を庭の隅におろしたものが、数年のうちに広がって引っ張ったくらいでは抜けないほどになり、汁の実にするくらいは、いつでも調達できるようになっている。


ゆきざさはイネ科の笹ではなくて、ユリ科の草だ。雪片のように見える白い小さな花が穂状に咲くので、その名があり、もう少し大型のオオバユキザサとともに関東の山ではよく見かけるが、それほどたくさん生えているというものではない。

北海道では湿り気の多い広葉樹林や沢沿いなどに群生しているそうだ。ほかの植物と間違えないために、少し葉が開きかかった頃に先端の蕾の塊を確かめて摘むとよいという。

あくがないので茹でておひたしや汁の実に、簡単でおいしいが、かたくりなどと同じように食べ過ぎるとお腹をこわす人もあるようだ。

「ゆきざさを茹でるとあずきを茹でたのと同じような匂いがするので、北海道では、あずきなというんだ」とは、かつて望月さんに伺ったことだが、あずきなと称ぶ山菜はほかにもあって、飛騨の高山祭りの頃に、そこの旅館や料亭で、あえものや煮つけで出されるという。

こちらのあずきなはマメ科のナンテンハギで、雪どけのあとに双葉が開き7、8センチになった頃が食べどきの由。

「ナンテンハギは武蔵野にも軽井沢にもたくさん生えるが、あずきなの風味は春の高山でなくては」とは『山菜歳時記』(柳原敏雄/中公文庫)の一節である。