せり・なずな・ごぎょう
はこべら・ほとけのざ
 
 
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春の七草のうち、すずな(かぶ、蕪)、すずしろ(だいこん、大根)とせり(芹)は、今日、栽培野菜のほうが当り前だろう。

せりは、わたしが15、6歳のころまでは、東京の世田谷、杉並、練馬のあたりでも、田圃が残っていて、その縁などに自生していたものだ。今でも山裾の湿地や小流のほとりで目にすることはあるが、水の汚れが気になるので、近年野性のものを採ったことはない。
 

 
 
なずな(薺)は、冬の間、地面に平たく広がったロゼット状に葉を保って光合成をしている。七草にはこの葉が使われるが、少し暖かくなると、花を咲かせる茎を何本も縦に伸ばしはじめ、上へ上へと蕾の先を伸ばしながら下から順に撥形に柄のついた実になっていく。

ペンペングサといって、子どもが遊ぶのは、このなずなの実なのである。実のついた柄の根元を茎から少し引きはがしてぶらぶらさせ、そのぶつかり合う音を楽しむのだ。この花芽の伸びはじめも、塩ゆでにして食べられるという。

ごぎょう(御形、五形、ハハコグサ、母子草)も、まだ花茎の伸びていない冬の葉が七草に使われる。七草粥のほか、ゆでた葉をとんとんと細かくきざんで、白玉粉や上新粉の団子にまぜれば、緑色の美しい草だんごになって粘りも強くなる。

どこにでも生える草だが、先日、家の近くの還八道路をまたぐ陸橋の階段の途中に冬のさなか堂々と茎を立て花を咲かせている1株を発見して驚いた。鉄製の階段で土もほとんど無く、朝など1、2度まで冷え込む日もあるのに、生命力の強さ、雑草のたくましさの典型ではないだろうか。

はこべら(繁縷、ハコベ)は、その名も、よく茂る、はびこるという意昧だという。

『身近な雑草のゆかいな生き方』稲垣栄洋:著/三上修:絵(草思社)という本に「七草ハコべの七つの秘密」というのがあって、はこべが、どのような手立てを用いて繁栄しているかが述べられている。わが家のせまい庭も気を抜くとすぐに覆いつくされそうになる。

はこべの若い花芽だけを塩ゆでにして、辛子和えにしたものが絶品だとは、『料理歳時記』辰巳浜子著(中公文庫)で知った。

ほとけのざ(仏の座、タビラコ、田平子)というが、七草のほとけのざは和名コオニタビラコ・キク科で、和名ホトケノザという草は全く別のシソ科であり、また、タビラコというのは和名キュウリグサ・ムラサキ科の別名なのでまことにまぎらわしい。

ほとけのざ(コオニタビラコ)も、なずなと同様にロゼット状に広がった冬の葉を七草に使う。同じキク科のタンポポを小形にし、葉のぎざぎざを少し丸みのある優しい形にしたような姿で、田畑の縁などに平らに貼りついているから田平子なのだが、どうして和名にコオニがついたのだろうか。別にオニタビラコという同じキク科の大形の草があるから、その小形という意味なのだろうが、小鬼にしても鬼は似つかわしくない気がする。


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