いわたばこ・うわばみそう
 
 

夏は少しでも涼しい道をと、山へ登るのにも沢沿いの登山道を選ぶことが多い。そんなおりに、しぶきがかかるような湿った岩壁にはりつくように群生しているいわたばこ(岩煙草)を見つけることがある。うす紫やときにピンクの星型の花はかわいらしいし、葉もつやがよく、細かい葉脈がしわのようにも見えて、山草として観賞用に育てている人も多い。

うすく柔らかい葉は、サラダ菜に近い感じで、サラダもよいし、和風の和えものにしてもよい。採るときは、根を傷めないように葉のつけねから、そっと取る。

30数年前に、西丹沢に通ったことがあって、その時何回か泊った神ノ川の長者小舎で、夕食の一品として供されたのを思いだす。だが、そのいわたばこを教えてくれた秋本さんは、知り合って数年後に事故で亡くなり、奥さんと子供さん達は郷里へ帰ってしまった。

 
 
うわばみそうも沢沿いなどの湿った、うす暗い所に生えている草だ。高尾山、奥多摩、奥武蔵でもよく見かける。東北地方には大ぶりなものが多く、みず、みずなと呼んでいる山菜がこれだ。しかし、まぎらわしいことに、同じイラクサ科に和名ミズとアオミズという別の2種があり、さらに葉と茎の姿形がウワバミソウにそっくりなキミズ(木ミズ)がある。

調理には、葉を取り除いて茎の先のほうから、皮をむきながら適宜折っていく(包丁の金気を嫌うため)。それを、熱湯をくぐらせる程度にゆでて、冷水で冷やし水気をきって和えものにする。赤い根元のほうの茎をすりこぎなどで叩いて柔らかくし、さらに包丁の背で叩いてから細かくきざむと、とろろのようなねばりがでる。器に入れて酢を落すとピンクが鮮やかになるので、薄口しょうゆなどで塩味をたすと、美しい和えものになる。

今年6月に、秋田の森吉山へ登ったとき泊った宿で、朝食の一品に出たものは、うす緑の茎をさっぱりした酢じょうゆに、ほんの少し加えたしょうががよく合って、シャキ、シャキした歯ざわりとともに、たいへんおいしかった。


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