はりえんじゅ(針槐)・ちゃ(茶)
 
 

はりえんじゅは、にせアカシアといったほうが通りがいいのではないか。5月末から6月初めにかけて、都会を離れた列車の窓から、白い房状の花がやたらに目につく木だ。

蜂蜜の容器に、「採蜜花・アカシア」と書かれていたら、養蜂家がこの花の蜜を蜂に集めさせてつくった蜂蜜である。

北米原産の外来種であるこの木が、どこででも見られるほどふえて、将来、わが国固有のほかの樹木の生育を脅かすかも知れないと、問題にされるようになり、また逆に養蜂業の人々が、この木が伐採されると事業の死活問題だと憂慮していることが、ごく最近、ニュースになった。

この花は天ぷらにして食べることができる。郷土食のひとつに加えて、民宿などで宣伝している所もあると聞いた。わたしはまだ試していないが、花を数輪、紅茶に浮かべて香りを楽しむ方もあるらしい。

小海線の松原湖の駅だったと思う。もう二十年ほど前のことだが、列車を待っていると線路のすぐ脇の茂みで、はりえんじゅの若い枝をバサバサと切り取って大きな篭に詰めこんでいるおじさんがいた。「なににするんですか」と聞くと、「山羊の餌だよ」という返事だった。
 
はりえんじゅという名は、葉のつけ根の托葉がとげに変化していることから、そう呼ばれるらしいが、このとげの無いものも多いという。

 
 
カフェイン、タンニン、アミノ酸、ビタミンC、それにカテキンなど、身体によい成分をいろいろ含むといわれ、お茶を食べるのが流行のようだ。先日の新聞にも「食べ茶う」という見出しで、お茶を使った料理をだすレストランや中華料理店が紹介されていたが、これは皆、製茶されたものを使う料理だった。

茶の木は中国原産らしく、はるか昔、唐へ留学した仏教僧の最澄などが種子を持ち帰ったのが始まりといわれる。本来、製茶のために栽培されていたものだから山菜とはいえないが、静岡や神奈川などの山を歩くと、もと茶畑であったものが、手不足や採算が合わないなどで、放棄されていたり、別の樹木を植林された下に生き残っていたりする。
 
こういう所に、新芽の季節に行きあわせたら、少し摘んでくるとよい。

そのまま天ぷらにもなるし、ゆでて水にさらし、白和えにしたら、色も美しく、おいしい一品になる。この食べ方は、前黒法師岳へ登ったおりに、静岡県竜洋町にお住いの牧野衛さんに教えていただいた。牧野さんはそのころ、すでに70歳ぐらいだったはずだが、髪は黒々、ほっぺたがほんのりあかく、大きなキスリングザックを背負って、まことに若々しかった。


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