はないかだ・にわとこ
 
 

今年、ゴールデンウィークでも人があまり来ない山をと選んで歩いた、大月近くの低山で、はないかだの木を見つけた。
 
葉のまん中に花が咲くという珍しい姿なので、気がつけば見分けはやさしい。

雄花は1枚の葉に3、4輪かたまって咲くが、雌花は1枚に1輪しかつかないものが多い。これが黒い実になると、ちょうど筏の中央に船頭が立っているように見える。

花筏とは優美ないい名前だが、筏に見たてられたのは葉のほうなのだ。

この木は湿り気の多い沢沿いなどの樹林帯に自生するが、あまり大きくならず、名のよさと花と葉の姿のおもしろさから庭木としてもよく植えられているということは、最近読んだ『続・日本の樹木』辻井達一著(中公新書)で知った。

柔かい若葉はくせもなく、浸しもの、和えもの、てんぷらにして食べられる。

 
 
にわとこも、山の道端や沢に沿った崖上など、どこにでも見られる木だ。芽出しのころの葉は、ちょっとたらのめに似ていなくもない。でももう少し細く小ぶりで、とげもない。花芽は枝の両側に対生につき、ぎっしり固まって、ぎぼうしのように丸く、さやのような外葉からはみ出してくる。この蕾は、堅い外葉をはずしててんぷらにするとおいしい。葉はてんぷらのほかに、ゆでて水にさらしてから、佃煮にしてもよいが、繊維がかたいので細かく刻むとよいだろう。

数年前の5月連休が過ぎたころ、奥秩父の主脈から三ノ瀬、二ノ瀬へおりて、塩山から呼んだタクシーの運転手さんに「今日はたくさん採れたから、おみやげに」ともらって帰ったのが、味を知った最初だった。


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