「蕎麦粒山はいい山だ」。とはいうものの「しかし」と続けて、「昔の蕎麦粒山は」と断りをしておきたい。なぜなら、最近といっても、それは6年ほど前のことになるが、何度目かの山頂に立ってみれば、周りを囲む木が育って昔の面影は皆無、この山特有のすっきりしたところがなくなって落胆もいいところだった。この川崎精雄さんと登った頃が一番よかったと思う。
ところで、山頂でのひと時、川崎さんは、これまで蕎麦粒山に登ったことがないという。そこで「東京に住んで、ずいぶん長い間山登りをやっているのに、なぜ、今までこんな身近な奥多摩の山に登ってことがなかったのですか」とたずねれば、「君と登ろうと楽しみにして、とっておいたのだよ」とは、いってくれるではないか。そんな殺し文句もあって、数度登ったうちでも、この時の蕎麦粒山がランキング1位。
上 山頂にたつ石は燧石質だという。昔の鋲靴ならば簡単に試してみることができたろうが、今のゴム底靴では、それもままならなかった。
中 仙元峠で休む川崎さん。
下 蕎麦粒山から尾根伝いに10分もいったところの小峰が仙元峠で石社があり、秩父側の浦山川の谷にくだる道が通じている。今は刈払いがしてあるが、川崎さんといったときは笹がかぶっていて、かきわけなければならなかった。だが、『雪山薮山』の著者ともなれば、こんなものは薮のうちにもはいらず、「どうということもないよ」。
(2013.5)
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