林岳 (居倉

林岳は、寺田政晴さんが『岳人』誌で紹介したのが、雑誌に載った最初だったと思う。もう25年も前のことである。寺田さんは五郎山を越えて千曲川源流に下り、甲武信岳に登るような山歩きをしていたから、その途次にこの小さな山にも立ち寄ったのだと思う。こんな山にわざわざ登りに来る人は多くないだろう。せいぜい、五郎山に登るついでか、町田市自然休暇村に泊まった人が軽いハイキングに出かける程度ではないだろうか。

寺田さんと横山さんが、この山に登ってきたと、帰りがけにロッジ山旅に寄ってくれたこともあって、私も早速登りに行ったのだったと思うが、それも20年前のことで、もう詳細は覚えていない。

例年なら甲府盆地周辺の山へもそろそろ出かけようという時期だが、秋らしい気温になったのもつかの間、再び猛暑になるとの予報では甲府に近づくのも嫌である。

またまた中信高原かなあと頭をひねったが、さすがに山域を変えようと、林岳を思い出した。1600mあればそう暑くもないだろう。

山椒は小粒でもピリリと辛い、といった山だが、辛いというほどでもなく、若い人ならものの30分で登れる山である。そこで数時間を遊ぼうというのだから、しばしば休憩をしながら登った。

西と東に少々離れたピークを持つ山で、一般的な径があるのは西ピークまで、東ピークへはかすかな踏跡があるだけである。

西ピークには諏訪の富士講のものらしき石碑が建っているが、どんな経緯でこんな場所に建っているのかはまったく不明である。「富士清月教会」と彫られた文字が見えるので、帰ってきて調べてみたら、その住所が、枝垂れ桜で有名な富士見境の高森観音堂になっている。へぇ、どうしてだろう、調べてみると面白いかもしれない。

わりと広い西ピークは羅漢寺山あたりに似た白砂青松で眺めがよい。昼にはまだ間があるので、東ピークで昼食にすることにする。ピーク間にはシャクナゲが多いので花期には見事だろう。

東ピークはごく狭い岩頭だが、ふたりだけなら広すぎるくらいである。眺めはいいし、小さな山でも達成感のある頂上である。ここで昼休みとしたが、この高さでも暑いくらいなのだから、下界はさぞやと思っていたら、案の定、甲府はもっともおそい猛暑記録になったとか。

地形図をみれば安全な下山の方法は一目瞭然である。そのとおり下って、4時間足らずの山遊びを終えた。

砥沢ヶ原(三峰山の南を探る)(霧ヶ峰・鉢伏山)

事情で少々遅い出発となった。さてどうしようかと考え、前々から気になっていた場所に行ってみることにした。

散々登った三峰山から南を見下ろしたとき、あそこはどんなところだろうと気になっていた原っぱがあったのである。ヤブ漕ぎさえなければ1時間もあればたどり着けるはずである。

せいぜい膝下くらいの笹を分けて急に下ると明確な踏跡が現れた。人通りよりは鹿通りがほとんどだろう。いたるところに鹿の寝床がある。

なかなかの深山の雰囲気と、初めて歩く場所だったこともあって、時間がかかったように思ったが、歩きだして目的地まで1時間あまりだった。

小さなピークを越えると、想像していたより広大な原っぱが拡がっていた。これは気持ちがいい。あいにく遠望のない日だったが、三峰山と二ツ山をつなぐ稜線の向こうには槍穂の峰々、諏訪湖の向こうには中央アルプスが並ぶに違いない。

三峰山付近はそもそも展望がいいのだから、ここに来て初めての大展望が得られるといった楽しみはないけれども、ここに至る稜線の雰囲気がすばらしいし、北に見上げる三峰山は実に立派で、それだけでも行く価値がある。

風が強い日で、のんびりと長時間を過ごすというわけにはいかなかった。この風の強さがここに林を造らせなかった理由かもしれない。高い山々が雪化粧した快晴の晩秋や新緑の1日に訪れたら最高だろう。また、ちょっと下ればすてきな木陰をつくってくれそうな木が何本もあるから、真夏の避暑も楽しめそうだ。

砥沢の源頭部にあたるので、砥沢ヶ原とでも名付けておくことにしよう。
御射鹿池~八方台(蓼科)

久しぶりに参加の名古屋のNさんが山帰りにそのままバスで帰名するというので、バス停への交通の都合がよくて、どこぞに面白そうなところはないかなと考えた。

長年の間にはたいていの場所は歩いていて、日帰りできる範囲には目新しい山はなくなっている。ならば同じ山でも方法を変えて登ることになるが、それも枯渇気味である。

頭を絞って、やっと前日に、八方台に御射鹿池から登るプランを思いついた。これは5年前にスノーシュー遊びで逆コースでたどっているが、雪に覆われた時期だったから、無雪期の様子はわからない。つまり初めてのようなものである。

紅葉の盛りにはごったがえす御射鹿池も、まだそれほどの人出はない。そもそも、それほどいい紅葉にならないんじゃないかという今年の気候である。

雪の下は、おそらく丈の短い笹原だろうと思っていたのはそのとおりで、ときおり苔むした岩稜帯にも出くわす。適当な鹿道を拾って歩いたが、きちんとした登山道のある山に較べると足の負担は倍増する。もっと楽に行けるだろうと思っていたのが、けっこうな時間がかかってしまった。

しかし、静寂さは満点だったし、道々、出始めたばかりの最上級のハナイグチが採れたし、登りついた八方台では八ヶ岳の大展望を楽しみながら昼休みができたし、山歩きにはちょうどいい気温とあいまって大満足だった。

大室山(鳴沢)

市川大門のWさんが日曜日に泊まってくれたとき、大室山に行きたいなあという話がでた。なにせ毎週木曜日の行先には悩んでいるから、リクエストがあればありがたい。

ずっと天気予報もいいし、さっそく今週どうでしょうと言ったらうまく都合がついて、他の人にも声をかけてくれ、昨今珍しい6人の大所帯となった。

大室山は展望が第一の山でもないが、ここならではの富士山が眺められる場所もあって、天気がいいにこしたことはない。途中の樹海歩きは、たとえ小雨の日でも興趣があるけれど、陽の射し込む苔の森も悪くない。

そして、実に明るい秋の好日になった。富士山もそれらしい雪化粧をして何よりである。今年の紅葉は良くないように感じるが、山は今を楽しむべきである。

青木ヶ原樹海を貫く精進口古道、大室山に差し掛かったとたんに打って変わった明るい広葉樹林、ブナの大木、富士の大展望、オアシスのような火口底、暗い樹海に隣り合った明るいススキの原、これだけの要素を一気に楽しめるハイキングコースなど滅多にはない。そして、そのすべてを楽しんだ一日だった。

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