八方台 (蓼科

今年度前半最後の山行は、前々回に雨で流れた八方台尾根を歩くことにした。

八方台だけなら明るい林の軽い散歩だけれども、やはりここは苔の森を合わせて歩いてこそである。しかし唐沢側からのコース設定ではいささか短すぎるきらいがある。

そこで地図を眺めて、湯川側から8の字のルートで歩けば、まあまあ時間がもかかって、夏の納涼山歩きにはよかろうと思った。こうやって歩くのは初めてである。

1650から2000mくらいのところを歩くのだから、もっと涼しくてもいいのだろうが、今年の暑さは異常で、木陰を歩くというのにそこそこ汗はかかされた。

このコースのハイライトといってもいい苔の森歩きでは、近年にないひどい雨に見舞われたが、北八ッでもっとも歩きやすい道だったのが幸いした。森の中で昼休みにして、ゆっくりと苔の森を楽しむつもりが、とてもそれどころではなかった。しかし、驟雨の苔の森なんかわざわざ行くことはないと思えば記憶には残る。

夏の雨だけに一気に降ったら、止むのも早かった。ぐっと冷えて寒くなったのが再び気温が上がる。雨に洗われてすっきりと蓼科山方面が見えた。その後ろには巨大な入道雲、いかにも夏らしい山歩きだった。

車山 (霧ヶ峰)

すがぬまさんとふたり旅になってしまった木曜山行だった。それなら別に車山にこだわることもあるまいと、小淵沢駅で落ち合ったときにリクエストはないか聞いてみようと思っていた。すがぬまさんと会うのは半年ぶりだというのだから驚かされる。

ところがなんと車山に登ったことがないという。これだけ霧ヶ峰に遊びながらウソでしょ。でも、ならば初志貫徹である。観光客が多いとはいえ、霧ヶ峰でもっとも展望のいいのは、最高峰の車山に間違いないのである。なんとなれば、霧ヶ峰の他のすべての地点からは、車山の方向だけが、そのでかい図体に隠されてしまうからである。

夏には珍しい遠望のきく日だった。車山肩に登っていく車窓から四囲の展望が拡がっていく。見えるべき山はすべて見える。これは画家のすがぬまさんにとっては最高の日和であった。つい10日前に行ったばかりだという立山も見えている。もとより、こちらもひと月ぶりの、のんびりゆっくり納涼休養山歩きで、歩程は短く、頂上で長時間を過ごそうという計画である。そしてそのとおり、頂上で2時間、創作に付き合うことになった。

人が少ないに越したことはないと、肩から時計回りで登ってみることにした。こうして車山に登るのは初めてだと思う。これはなかなかよくて、頂上でリフトで登ってきた観光客と混じるまではすれ違う人もまばらだった。それにしてもさすがは標高2000m近いとなると涼しいなあ。

頂上では、3年前に登ったときに工事が始まっていた展望テラスが完成していた。頂上に居る間には、その広いテラスが無人になってしまったこともあったのだから、夏の終わりでさすがに人出も少なくなっていたのだと思う。2時間もいれば光線が変わって、北アルプスは遠くなり、八ヶ岳がくっきりとしてきた。すがぬまさんは方角を変えてスケッチである。

山全体がわずかながら黄色味を帯び始めた、晩夏の霧ヶ峰だった。
茶臼山(蓼科)

台風が来るというのですっかりあきらめていたら、どういうわけか木曜日だけ晴れマークが出た。どこか涼しげな山はないかいなと考えて、茶臼山を思い出した。

調べたら、木曜山行を始めた年に行ったきりというのだから20年ぶりなのには驚く。麦草峠の駐車場がすぐに満杯になるような人気の山域だから避けていたら20年もたっていたわけだ。もっとも、木曜山行以外では何度か出かけており、しかしそれにしたって10年はご無沙汰していた。

夏休み明けの平日だから駐車場はがら空きかと思いきや、あと数台分しか空いていなかった。これは山に入ったら人がわりと多いかと思っていたが、どういうわけか茶臼山の山頂で10人足らずの人を見た以外、登山道ですれ違う人はひとりもいなかったのだから不思議で、皆さん、どこへ行ってしまったのだろう。

茶臼山展望台では、遠望こそなかったが、雲が流れて、合間に北横岳や縞枯山や冷山が現れる。久々の高山らしい風景である。1時間近くを過ごした。

たいした行程ではないと計画したのだったが、やはり北八ッは歩きにくい。若い頃はどうってことのなかった道も、バランス感覚の衰えた今ではさっさと歩くことができず、思ったよりずっと時間がかかった。

小日向山(霧ヶ峰)

例年、9月はおとみ山の誕生祝い山歩きをしていて、ここのところの2年は八千穂高原を歩いた。なにせ道はいいし、林はきれいだし、人けはないし、行程は短いし、さらに多少の雨でも東屋が使えるとあって、そんな山歩きには最適な場所だからである。

まあでも、3年連続というのも芸がないなあと考えて、久しぶりに小日向山に行ってみることにした。今年は冷山、星ヶ塔と黒耀石づいているし、和田峠山から星糞峠を眺めたばかりでもある。3年前に行ったとき、星糞峠で何やら大がかりな工事をしていたのがどうなったのかも気になる。

その工事によって、星糞峠付近、また、小日向山が変に俗化していないかが心配だったのだが杞憂だった。むしろ、一時期、伐採にあたって開削され、山肌を醜くしていた作業道が、早くも草に覆われ、以前からここを知らない者には道の発見すら難しいくらいになっていた。

いましもススキがもっとも旺盛な時期で、広大な頂上の草原にはおびただしい穂が風になびいていた。風は涼しいとはいえ、陽ざしはまだ夏のそれである。

人っ子一人いない大草原の一角に陣取ってささやかな宴を張った。縄文の昔から、89歳がここに登ってきたのはおそらく最高齢記録だろうが、むろんそれを証明する手立てはない。あの雄一郎は富士山に登ったと最近のニュースで知ったが、こちらの雄一郎のほうがすごいんじゃないの。

星糞峠に建設されたのは、その名も「星くそ館」という施設で、虫倉山方面に少し登ったところにあり、帰りがけに立ち寄ってみた。要するに星糞峠はまったく前のまま変わらなかった。

下にある黒耀石体験ミュージアムの付帯施設らしく、まったく人けがないので、閉館しているのかと思いきや、扉が開いていて見学することができた。上のサイトによるとミュージアムで受け付けが必要とあるが、我々のように山歩きに来たついでに見学する人はどうすればいいのだろうか。ま、別に問題なく見学はできたが、おそらく監視カメラで下で見られていたのだろうな。

それにしても、えらくお金のかかった施設だった。星糞峠へは相変わらず一般車は入れないからミュージアムから歩けば30分程度はかかるだろうに(サイトには50分とある)、どのくらい見学者があるのだろうか。

ともあれ、以前と変わらぬ静寂の小日向山だったのはうれしかった。

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