入野谷山〜北笹山(市野瀬

恒例の大鹿村山行は山歩きもさることながら大鹿村そのものに行くことが目的のひとつである。私が住む村も山にあるがそれは火山の裾野で、山あいという感じはしない。一方の大鹿村は日本を代表するような山あいの村なので、同じ山村でも新鮮に映るのである。そしてそれも定宿の延齢草があってこそである。

大鹿村行きならいつも顔を出す人たちが都合がつかず、今回の参加者はおとみ山と中村好至恵さんの二人だけになってしまった。それなら何も10人乗りの山旅号で行くこともあるまいと、好至恵さんが買ったばかりの新車を使わせてくれるというので移動は快適なドライブとなった。

初日の朝は大雨で、飯島町の傘山に登るつもりだったのをあっさりと諦め、まずは伊那のかんてんぱぱガーデンで暇つぶしをした。昼頃になると雨もやんだがそれから山登りというわけにもいかず、さてどうしましょうかと思案、去年の大鹿村山行も初日は雨で、下栗の里に行ったのだったが、おとみ山がそのとき不参加でぜひ行ってみたいというので、ではそうしましょうと上村へ向かうことにした。天候の回復が早ければ、南アルプスも顔を出すかもしれない。

車がいいし2度目でもあるので距離感が違う。あっけなく下栗に着いてしまった。雨は完全にやんで、前衛の山は姿を現していたが、南アルプスの雲は結局取れなかった。せっかくなので歩いて展望台まで行った。去年は集落にも雲がかかってそれはそれで幻想的だったが、今年はすっきりと全容を眺めることができた。

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延齢草では宿の佐藤さん夫婦も加わって話は尽きなかった。夜半に目が覚めると明るい月夜だった。

2日目は去年同様北笹山である。今年も佐藤さんが同行してくれることになった。去年は5月22日で、頂稜ではまだ芽吹きが始まったばかりだったので、今年は2週間ほどずらして、世にも美しい林の新緑を楽しもうと思ったのである。

前日の雨で塵が洗われたのだろう、宿のある高台から小渋川まで下ると上流の空にくっきりと赤石岳が眺められた。しかしまだ空は白い。

分杭峠までの谷合の道から見える狭い空はだんだんと青くなっていった。分杭峠から登り始めてしばらくすると、中央アルプスから乗鞍岳を経て北アルプスの峰々が忽然と現れる。北へいくほど雲が多いが、中央アルプスには一片の雲もない。

頂稜に至るまでの落葉松林もこの時季は美しいが、頂稜に至ってからの稜線東側の特異な地形に拡がる植生の豊かさこそ、北笹山頂上の展望と並んでこの山歩きのハイライトで、毎度感嘆させられる。入野谷山三角点を過ぎると平坦な稜線となって、彷徨うような山歩きである。早く通り過ぎるのがもったいない。

今年は季節の移ろいが早い。新緑というには緑が濃くなっていたが、それでもミズナラなどはまだまだ淡い緑だった。かわりに例年ならもう少し遅いはずのレンゲツツジが花の盛りになっていた。

そして大展望の北笹山であった。見えるべき山はすべて見え、何も言うことはなかった。2時間近く山を描き、山を眺めて過ごしたのだった。

小沢根の頭〜物見石山(和田)

去年の秋、美ヶ原の茶臼山の稜線上の、風越という名前の三角点のある小突起に横山夫妻と登ったとき、枝越しに見える物見石山から東に一段下がったところに笹原で見晴しの良さそうな山が見えた。

地形図で調べるとその東麓にある別荘地から破線が伸びている。小沢根の頭という名前もあるらしい。そこでさっそくその翌日に登りにいって、その径の良さ、樹林の良さ、展望の良さに感嘆した。

これは新緑の時季にもぜひ行ってみたいと木曜山行の計画に入れたのだった。しかし小沢根の頭だけでは少々行程が短すぎるので、物見石山まで登ってみることにした。美ヶ原台地の東端にあるこの山は見る方向によってはほとんど山らしい格好をしていないが、小沢根の頭から見た姿は、どこに出しても恥ずかしくない立派な山容である。

登山口付近こそ落葉松林だが、まもなくそれを抜けると白樺と岳樺の混成林に入る。その新緑のみずみずしさといったらなかった。小沢根の頭を北側から巻くとどっしりと大きい物見岩山が全容を現す。小沢根の頭には帰りがけに立ち寄ることにして、まず目標の山に登ることにした。

針葉樹の林を抜け、笹原を抜け、鉄平石が敷き詰められた径を登り、と変化に富んだ登路だった。株は少ないが、この山のレンゲツツジの花の色は実に濃い。この日は遠望こそすっきりしなかったが、もしそれらが望めるような好天であれば登るにつれ拡がる展望に歩みは遅々として進まなかったにちがいない。

しかしがっくりするのは頂上三角点に至って初めて目に飛び込んでくる、美ヶ原高原美術館の建物と、芸術でございと大きな顔をして山上を汚している、彫刻と言う名の粗大ごみの群れである。その方向は見ないようにして昼のひとときを過ごした。うっすらと北アルプスの山並みが望めたのはこの日の天気としては幸運だった。

帰りがけに立ち寄った小沢根の頭はやはり白眉の山頂であった。レンゲツツジも盛りに近い。前述のとおり、なによりここからの物見石山がすばらしい。天気は下り坂だという予報とは裏腹に、周囲の山々がよく見えるようになってきた。これはいいところだねえとまた長く休んだ。

この日は逆側からは簡単に来られる物見石山にも誰もおらず、結局ひとりの登山者にも出会わないままだった。

ゼブラ山(霧ヶ峰)

今週の木曜山行は乗鞍岳東稜線にある2014.9m三角点に見晴峠から登ってみようという計画だった。いうまでもなく西暦年の山へ登るというアイデアからのリクエストだった。

夜半から降り続いた雨はいったんこやみになったが明け方にはまた強まった。集合場所に行くとこんな雨の中を本当に出かけるのかと皆さん半信半疑の顔だったが、山梨県は雨でも長野県中部は日中曇りだというので出かけることにしたのだった。

長野県に入ると実際雨はやんだ。しかし雨は降らずとも初めてのところで何も見えないような天気では遠征する甲斐もないし、午後からはいつまた降り出すかもわからない。今年はレンゲツツジが見事だし、それを見物ついでにゼブラ山にでも登りますかと提案したら、参加者の皆さんには是非もなかった。それなら午前中に終わるから、昼飯は諏訪に下ってとんかつを食おうと、またたく間にそちらが主要行事となり、山はごほうびをもらうためにとりあえず片付けなければならない懸案となった。

ともあれこれが怪我の功名というわけで、晴天の予報なら繰り出しているだろう人出もなく、レンゲツツジも見事、霧が流れて演出もいい、ときには薄日も射した。

霧ヶ峰は人出を避けて北側から登るのがこの10年の通例だったから、ゼブラ山に八島湿原から登るのはそのとおり10年ぶりのことだった。登頂後に八島湿原の残りを半周して戻ったが、これも10年ぶりだった。

諏訪に下って、たわらさんご推奨の店に着いたころには昼間の混む時間がちょうど過ぎたところで、待つこともなく分厚いとんかつにありついた。その後、買い物したり甘味を楽しんだり温泉に浸かったりと午後を過ごしたのち帰った。

これからも山はこの調子で行こうとは参加者の皆さんの言だが、木曜山行の来るべき未来を暗示させるかのような一日であった。

見晴峠〜鈴蘭峰(乗鞍岳)

梅雨の晴れ間が続きそうなので、前週の計画だった鈴蘭峰を順延することにした。本来の計画だった富士二ツ塚は何度か行ったし、二ツ塚は富士が見えてナンボのところがあるので、晴れ間があるとはいえこの時季はリスクが高い。

それに鈴蘭峰というのが今年の西暦と同じ2015mだというのでリクエストがあったわけだから来年というわけにもいかない。もっとも正確には2014.9mだがこの際四捨五入してしまったのである。ネット検索で調べた山だというが、世の中にはいろいろと発見してくれる人がいるもので、ちゃんと2015mの山があったというのがそれだったのである。鈴蘭峰とはいかにも新しい名前で、南麓の地名を採ったものだろうが、そもそもこの地名も古いものではないだろう。点名は笹窪という。

むろん私は初耳で、言われてみて地形図を見ると、乗鞍の鈴蘭から白骨温泉へと越える見晴峠から尾根通しに西上したところになるほどその三角点がある。古い峠道に興味もあったし、知らないところに行くことが最近では少ないので、その新鮮味もあって木曜山行の計画に入れたのだった。見晴峠はハイキング道だから問題はなかろうが、稜線上がスズタケの藪だったりして踏跡がなければ突破は難しいだろう、そのあたりは行ってみて判断することにする。

見晴峠への径は想像以上にすばらしかった。古い峠道の歩きやすい傾斜もさることながら、冬は長く雪に埋もれる土地は林床の植生が豊かで、この雰囲気は山梨県の山にはないものである。今ではさほど歩く人もいないらしく、径もほぼ緑に覆われて、人間ひとり分だけの幅の土色が一筋に続いていた。

峠が近づいて落葉松の植林地を抜けると、わずかの間ではあったが樹林の雰囲気は圧巻になった。白骨へ下る径は山の北側だからなおすばらしいのではと想像される。いつか歩いてみたいものである。

峠の手前の大岩からは乗鞍岳方面が眺められ、この径では唯一の展望場所だが、あいにく頂上一帯は雲に隠れていた。峠を示す立札ひとつあるわけではない見晴峠も風情のあるところだったが、名前どおりの見晴しはどこにもない。

稜線上は幸いさほど背の高くない笹で、わずかに踏跡もあったので、これなら大丈夫と目的の山を目指した。

途中歩きやすい地面もあったがそれはわずかでほぼ笹薮が続いた。地形図ではわからない二重山稜がところどころにあって、これが点名笹窪の由来かとも思われた。

昼過ぎに目的の山には達したが、さて昼休みというにはつきまとってくる虫がうるさすぎてじっと座っているわけにもいかない。それでも日蔭に入るとわずかながら虫も少なくなってそそくさと食事を済ませた。

登りは辛い笹薮も下りは早い。見晴峠からは、石ゴロもなく柔らかく、傾斜もほどよい径だから、登りの半分の時間で下ってしまった。

登山口に温泉があるのがこのあたりのいいところ、間髪を入れずに白濁の湯に浸かって大団円となった。

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