達沢山(石和)

木曜山行では毎年この時季に甲府盆地の桃源郷を見下ろす山に出かけるのが通例だが、10年も続けていれば目ぼしい山も払底する。そこで2度3度と登場する山も出てくる。しかし違う季節ならまだしも、同じ季節なのだから少しはコースに変化を持たせなければ面白くない。

達沢山は2007,8年の4月に2年続けて登り、これは立沢から同じ登路だったが、下りはそれぞれ西へ、旭山と大久保山へと続く尾根を下った。この山は山梨百名山になってから、立沢からの径が整備され、それを往復することが多いだろうが、この山の良さはこれら西へと長く延びる尾根歩きにこそあるように思う。

達沢山から桃源郷へ下る尾根はもうひとつある。これは今の地形図にも破線が残っているから誰にでも道筋はわかる。すなわち1016mの標高点から北へと下るものだが、昨日下ってみて、赤テープの類が皆無なことからも、歩く人が稀なことがうかがわれた。

結局、達沢山から桃源郷へ下るのにもっとも簡単なのは旭山への尾根、その次が昨日の尾根、そしてもっとも手ごわいのが大久保山への尾根となるだろう。しかし旭山への尾根にしても、迷いやすい地点に道標があるわけではないので一般路とは言いがたい。

6年ぶりともなればそろそろご機嫌を伺うのもいいだろうというのが昨日の達沢山の計画だったが、それでも前述の尾根を下ることにして過去2回とは変化をつけるつもりであった。

ところが前日に地図を見ているうちに、登りも、いつもの立沢からの径では面白くないと思い始めた。立沢からは、導入部が採石場で殺伐としている上に林道歩きが長く、要するに色気に乏しい。

そこで、ひとつ尾根を隔てて北側の戸倉沢を詰めるのはどうかと考えたのである。地形図に破線も入っている。

出発点は御坂路さくら公園である。小さな山にこれでもかと桜が植えられているがまだ2分咲き程度だった。この公園が出来てすぐのころ来て以来だから15年ぶりで、桜は立派に育って、花の盛りには素晴らしいことだろう。

沢沿いの車道が尽きると作業道に入り、滝場を避けて急斜面のケモノ道をたどり、最後は沢に降りて今年ならではの雪渓を歩く。源頭部に至り北上、なんとか達沢山南尾根に達したらしっかりした踏跡があって頂上はすぐだった。

頂上にはこの時季なら他の登山者もあるかと思ったが誰もいなかった。西側はもともと広葉樹の自然林で明るかったが、間伐されていてさらに明るくなっていた。富士山は空に融けこんでほとんど見えないのは春らしい。

長い昼休みのあと西へと下ったが、明るくて実に気分のいい下りである。1014からの破線は古い木曳道である。ところどころ怪しくなるが、なんとか道筋を拾って出たのは大石川沿いの林道で、それを下ると桃源郷の展望台に出る。

昨年の同じ日にお客さんを案内してここまで来たときには盛りだった桃がまだつぼみだったのは残念だったが、下に広がる盆地は桃色に染まって、何とか、桃源郷への下降という計画の面目は立ったのであった。

深草山(甲府北部)

『甲斐国志』に「深草山」という名前が登場するが、山村正光さんは『中央線各駅登山』(山と溪谷社)の中で現在の「鹿穴」(989.8m三角点)がそれではないかと書いている。

しかし「鹿穴」という名前は三角点名そのもので、明治時代の測量士がどういう理由でそう命名したかは不明だが、文字通りの即物的な発想ではなかったかと想像される。さほど目立つわけでもないこのピークに三角点が置かれたのは測量の便宜でしかない。

つまり『甲斐国志』の「深草山」は「鹿穴」ではないだろうというのが私の意見である。「深草山」は頂上を指すのではなく山域であるのかもしれないが、もし現代的にその最高点を名前の代表とするならば、岩堂峠の南西の1042m峰をそれとするのが妥当と思われる。左の画像は塚原峠付近からのものだが、甲府市西部あたりからこの山並みを眺めたとき、もっとも目立つピークに名前がないのを以前から不思議に思っていたのである。

もともと「深草」という地名は岩堂峠の東側、今の行政区分では笛吹市側を指す。深草の詰めにあたるのが1042m峰で、それを深草山と呼ぶのが自然でもある。深草観音の本尊を祀る、岩堂峠への上積翠寺側の入口にある瑞岩寺は、かつてその深草の地にあったという。山号が深草山というのはその理由でもあろう。

頂上に三角点があるとありがたがるのは我々の通弊だが、その通弊があるので、三角点のない山は見逃されやすい。「鹿穴」は三角点があることによって多少は登る人もあるが、その隣の、どう見てもずっと立派な1042m峰に登る人はぐっと少ない。

(岩堂峠などに新しい周辺地図が林務所によって立てられていた。それによるとこの1042m峰は「鬼山」と書かれている。出典は不明)



この深草山には去年の暮れの木曜山行で出かけたのだったが、途中から降りだした雪に、こんな天気に登る山でもないと引き返した。そのときに新緑の頃にでも出直しましょうとしたのがこの日の計画になったのである。

上積翠寺を起点に、岩堂峠への分岐を経て、地図上の破線を太良峠から南に下る尾根まで登り(ほぼ廃道)、尾根通しに岩堂峠へ、そして深草山を越えて、鞍掛峠(鹿穴の北の鞍部)から上積翠寺に下った(これもほぼ廃道。入口に危険通行禁止と書かれた立て札があった)。

本来ならこの日は深草観音の例大祭であったことを登山口で会った人が教えてくれた。本来ならというのは、本尊を祀った瑞岩寺で不幸があって今年は中止になったからである。

珍しく何人かと道々出逢ったのはそのせいだったのかもしれない。しかし、それも岩堂峠への分岐を過ぎるまでだった。

今年は木の花がどこでも盛んなように思う。岩場の多いこの山域ではミツバツツジもまた多い。他に先んじて咲く紫色は早春の山でもっとも印象が深い。

正午をかなりまわっての到着となった深草山の頂上には何もない。何もないのがすっきりしていていいのである。深草山などと名づけたことをこんなところに書くと、頂上に山名標を設置するような迷惑な輩が現れないとは限らないが、ま、見つけたときには谷底に捨てることにしよう。

鞍掛峠から積翠寺へ下る沢には見事なケヤキが多い。ケヤキの芽吹きはまだだが、その林床の新緑が下るにしたがって濃くなっていく。いかにも春らしい低山歩きを楽しめた。

笠無〜比志の塒(谷戸)

笠無に初めて登ったのはこの地に越してくる前のことだったが、近所に住まうようになってから、軽く20回以上は登っている。知らぬうちにそんな数になったのは、すぐ近所になったことや歩く行程が短いので、たとえ午後からでも気が向けばすぐに出かけられることもあるが、何よりこの山が明るいからである。

私は明るい山と明るい尾根道が好きだ。源太ヶ城から笠無を経て比志の塒までには南側へ張り出す尾根が多い。どの尾根も私好みの広葉樹の明るい尾根である。それらをひとつひとつ歩いているうちにおのずと笠無の頂上にも立つことが多くなったのである。

この日の木曜山行で選んだ登路には、あらたに道標が立てられたが、初心者が安心して登れるわけではない。ただ入口を示すのみと考えたほうがいいだろう。ただし、林道をたどって目指す尾根の入口を探し当てるのは相当難しいことだから、その意味では登山道入口を示す道標は役に立つ。

もっとも、笠無の場合、どこの尾根を登ろうとも何がしかの踏跡はあるし、登りさえすれば必ず主稜線にたどり着くのだからさほど難しいわけではない。難しいのは下りで、思ったところにたどり着ければ地図読みも中級者といってよかろう。

林道のゲートが閉まっていて、予定外の舗装路歩きから始まった。まあ、それも軽いウォーミングアップくらいの時間ではある。

登山口からわずかで尾根に乗ると、まだ伐採されたばかりの斜面の上である。おかげで眺めはすばらしい。期待していたミツバツツジはこのあたりでは咲いているが、少し登るとまだまだで、あと10日もすれば見事になるだろう。今年がミツバツツジの当たり年であることは間違いないように思う。

急登の連続で登り着いた頂上は間伐されて明るくなった。陽春といった言葉がぴったりする日、実にのんびりした気分になって、長い昼休みとなった。腰を痛めていて2年近くご無沙汰だったNheiさんが久しぶりの参加で、心やさしい山歩大介さんがお祝いにとケーキを持ち上げてくれた。

勝手知ったる比志の塒への径も、あの大雪のせいだろう、かなり取り散らかっていた。比志の塒から大尾根越路へ下る津金の主稜線は久しぶりだった。途中から近道をするために西へとを支尾根を下り、建設中の林道に出て、それを下った。

斑山(若神子)

この日の木曜山行は荒倉山から大平の予定だったが、変更して斑山とした。参加者に久しぶりに山に登る人がいて、予定どおりだと少々きついかもしれないと思ったことと、先週、笠無ではツツジが早かったので、斑山ならちょうどいいかと思ったからであった。

斑山には北南東の方向はさんざん登ったり下ったりしたが、西側の尾根を使ったことはなかったので、そのひとつを登ってみることにした。

地形図に破線があるが、これはかつては車も入った道らしい。今では車どころか歩く人も稀だろうが、今まで知らないでいたのが悔やまれるほどの快適な径だった。

肝心のツツジはほぼ散ったあとだったが、まだ散ったばかりで、花びらが地面で色を残していた。先週この山に登っていれば見事だったことだろう。花の時期にうまく合わせるのはなかなかむずかしい。

花が終りかけていたのは残念だったが、そのかわり木々はいっせいに芽吹いており、さわやかな新緑の中での登降となった。5月もなかばになれば稜線のミズナラも芽吹いて、なお美しくなるだろう。そんな頃、またふらっと出かけてみたい。

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