伊豆大川から天城山

天城山への登路は天城高原からだけではない。他によく知られているのは熱川温泉のある奈良本からの林道で、箒木(ほうき)山の直下から天城山稜の南面奥深くまで車で入ることができる。眺めのよい1024メートルの箒木山へは途中のゲートからさらに急な車道を歩けば1時間もかからないし、万二郎岳へはここから尾根伝いだ。この林道は実際に歩いたことはないので詳しくは分からないが、地図で見る限り迂回が多く、歩いて登るには向かないようである。私が注目したのは、伊豆大川から箒木山の南東山腹をたどり奈良本からの道と合流する細い林道である。

長雨の続く5月下旬、週末の雨の止み間をとらえて、いつもの山仲間Kと伊豆急線伊豆大川駅からこの登路を試みた。ちなみに伊東から大川まで運賃は880円、下から登った方が天城高原から登るより高くつくとはなんとも皮肉ではある。

駅を9時少し前に出発。左手に迫る山裾を巻き込むように車道を登っていく。やがて箒木山南東尾根の北面を這う農道が左に出合う。目的の林道へはここから登るが、地理院の2万5千図「天城山」に記された道は、等高線にはおかまいなしである。首をかしげたくなるような道筋に呆れるが、実際の農道はもっと地形に即しており、駅から1時間もかからずに簡易舗装された林道の入り口に出た。

登山コースで車道歩きは一般にあまり歓迎されない。いちばんの理由は歩く道より遠回りで効率が悪いからだが、そのほかにも植林ばかりで退屈、車の通行が多い、などといったことで敬遠される。さいわいこの林道はそのいずれにもあてはまらず、歩くコースとしてもけっこう楽しめる。全行程の7割程度は自然林で、地図に表れているほどには道のりの長さを感じない。また箒木山下のゲートにいたるまでシャクナゲシーズンの休日にもかかわらず車一台出会わなかった。

ミツバツツジ
 万二郎岳の登りで

谷を隔てて左手には箒木山南東尾根東支稜の720メートルの尖峰が、低山にしてはなかなかの相貌である。登るにしたがい横顔を変化させる720メートル峰が平頂に変わると、南東尾根720メートルのコルも近い。いつ降り出してもおかしくない空から、とうとう雨粒が落ちてきた。と、突然、ガスの中から目の前にぬっと巨大な風車が現れ、林道はここで南東尾根の南側へ回り込み、奈良本林道と合流する。すぐ先が箒木山山頂にあるアンテナ施設の急な管理道路との分岐である。

ゲートを抜けて登っていく途中で、板切れに「中道」と記された消えかけた標識を見つけた。どうやら箒木山の山頂をパスして万二郎岳との鞍部へ直接出る近道らしい。この山腹を横切る長々とした巻き道は、奈良本林道からの直登コースに合流すると稜線へ向かって一気につめ上げる。いつか雨は本降りに変わり、ぬれて滑りそうな急斜面をかき登って、赤崩(あかくんま)と呼ばれる崩壊近くの鞍部に出た。


              
万三郎岳山頂付近のアマギシャクナゲ 

鞍部の標高は千メートルをわずかに越えている。アセビやツツジなどの低木が生い茂る天城山特有の樹林の急坂をぐんぐん登れば、やがて人声がして12時半、休日の登山者でにぎわう万二郎岳の山頂に到着。駅から約3時間半、下から登る天城山は、たしかに根張りの大きな半島の屋根と呼ぶにふさわしい歩き応えのある山だった。帰りは運良く雨があがり、盛りのアマギシャクナゲを見物しながら稜線を万三郎岳へ縦走、北面コースから天城高原ゴルフ場へ下山した。
                        (2009・5・24)

                    天城山らしいヒメシャラの森をゆく

   その1 伊豆大川から天城山

   その2 地蔵尾根から仙丈ヶ岳

   その3 七里岩台地から甲斐駒ヶ岳

                                       

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