滝戸山〜貉山(市川大門・河口湖西

夜のうちに高山には雪が降った。夜明け前にはすっかり晴れて、おそろしいほどの月明りに照らされた山々が青白く見えた。滅多には見られないような荘厳な朝である。そのうえ、南アルプスに向かって走りなれた車道を下っていくとき、驚くほど大きい満月が西の山の端に隠れようとしており、その対角線上の東からは太陽の光がこぼれ出た。これはとても写真にできるものではないから、しかと目に焼き付けたのである。流星群云々よりはよほどすごい天体ショーに思えた。

キレット小屋のKさんが昨日の木曜山行に参加してくれることになった。ひと月ほどネパールに行っていて、アンナプルナを一周しながら6000m峰をふたつ登ってきたという。前夜はその土産話を伺った。それで今度は貉山とは山の趣味の懐が深い。

計画には貉山としてあったが、Kさんとすがぬまさんは滝戸山が初めてだというので、それならやはり滝戸山にも登ったほうがいいだろうと、少々早めの出発とした。そのおかげで前述の天体ショーを見ることができたのである。

滝戸山は私の好きな山で、登路を変えて数えきれないほど登った。何よりも樹林の良さがその身上だが、白峰三山の展望台としての価値も大きい。おそらくこの山の頂上から北尾根にかけて以上の白峰三山の展望台はあるまいと思う。もっとも、この手の山の通例で、展望が楽しめるのは人為が入ったときの偶然による。

林道工事にともなう法面の伐採による大展望があったときに白峰三山を撮った写真は旧版の『山梨県の山』の概説に使った。しかし、もう木が伸びて同じ写真は撮れない。

鶯宿峠を越える林道をアプローチに使うことの多い滝戸山だが、それだとあまりに簡単すぎて面白くないので、鶯宿峠の旧道を登ってみたりもしたが、樹林の雰囲気がもっともすばらしいのは御殿滝からのルートである。

これは早春に一度しか登ったことがないが、それですっかり気に入った。次は新緑のころにでもと思い、何度か計画したように思うが、悪天で流れ、そのまま実現していない。

滝戸山が山梨百名山に選ばれたときに当時の中道町によって整備されたルートだが、その前から仕事径はあったのだろうと思う。車を使えば鶯宿峠からごく簡単に登れてしまう山だから、800mを登らなければならないこのルートをたどる人はごく少ないだろう。

今では甲府市に属するルートだが、ピンクのテープが多すぎるのには閉口した。複数の役場職員が歩いて、それぞれが仕事をしているつもりになってテープを巻きつけているのだろうと思われるが、物事がわかっていないので、樹林の良さを台無しにすることになる。冬枯れの美しい林に、数メートルおきにピンクのテープがひらひらしているのがいかに目障りかがわかっていないのである。

前回歩いた8年前には大展望が得られた場所も木々が育ってはかばかしい展望はなくなっていたが、こんな山では樹林越しの風景があれば上々で、そこに味わいがある。

好天だが気温の上がらない日で、奥秩父が終日白かったのがそれを証明していた。頂上でもあまりのんびりはできず、長居をしないで北尾根を下りだす。

この尾根には古い木曳道が残っているが、そこは落葉が降り積もって歩きづらいので、道の端の高みを拾って下っていく。快適な下りである。本来の目的の貉山の三角点にあいさつして、金毘羅神社では早めの初詣をする。

金毘羅神社からは西へと初めての尾根道を下る。市境稜線にはまずまずの径が通じていたが、諏訪神社へと続く稜線に入るととたんに藪っぽくなり、最後の最後は密藪を強引に突破して里道にまろび出た。

黒森山(増富山地)(瑞牆山)

年の最後の木曜山行は、最近では近所の山を軽く歩いてから納会という流れになっている。

午後からは雨模様だというので、午前中で済みそうな山を考えて、11月の木曜山行で木賊の頭に変更してしまった増富山地の計画を思い出した。今年の須玉の秘峰探索は増富山地に集中していて、その総仕上げとしてもちょうどよい。

目標は黒森集落の南東にある1405.9m峰で、三角点名が「黒森」だから黒森山と呼んでいるが、地元での呼称があるのかもしれない。私にとっては10年ぶりの再訪となる。ただこの山に登るだけではあまりに簡単すぎるので、和田から馬蹄形に縦走して最終的に達するというルートをとった。

この手の山は葉の落ち切った時季が行く手が見えるので格段に簡単になる。昨日のルートのもっとも難しい部分は、増富山地主稜から黒森山への稜線に移るところだが、行先が見えているのですんなりといった。

黒森山は美しい広葉樹に覆われた山である。この時季、地面がまったく見えないほど落葉で埋まった山腹もまた美しい。予定どおり午前中には頂上に着いたが、風が強いので、少し東に下って昼休みとしたのち、落葉を蹴散らして一気に下った。

夕方からはロッジにて総勢8人での納会となった。にぎやかに世を語り人を語って(山の話がほとんど出ないのがいいところ)夜が更けていった。


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