富士山二ツ塚(須走・印野

やはり富士山というネームバリューだろうか、最近は参加者の少ない木曜山行にしてはにぎやかな一日となった。しかも中に初参加の方が3人もいるのはさらに珍しい。

「富士山で最高のハイキングコース」という惹句を使ったせいかもしれないが、しかしこれは誇大広告でもなんでもなく、たいした労力もなく歩け、しかも独立型の火山である富士山の特徴を味わえるという点で、まず他にないコースだといえると思う。

しかしそれも好天であってこそ、ことに富士の頂上が見えていない日であれば著しく画竜点睛を欠く。これまでに計画していながら何度も中止にしたのは、何しろ私の地元からは遠い場所だし、ただでさえ雲の湧きやすい御殿場方面だから、確実な晴天でもなければ出かけるには迷ったことに理由があった。

晴天が続いて、そろそろ悪化するのではないかと心配したが、大月駅での合流組もあって、もう行先を変えるわけにいかない。初志貫徹で向かったが、山梨県側では富士にまとわりついていた雲が、御殿場口へ上がるころには完全に取れ、登山口では全容を現していた。初冠雪したばかりだったのも幸運である。

二ツ塚の鞍部では秋らしい鱗雲が富士山上空に現れ、その変化をしばし楽しむことになった。これまで新緑のときにしか歩いていなかったので、今回は黄葉を楽しもうとこの時季にしたのだが、それもピタリと当たって、今しも落葉松の黄葉が盛りである。

火山砂の登りは苦しいが、下りはあっという間である。登山道からわずかにはずれたところに、風も吹かないオアシスがあるので、そこで長い昼休みとした。

帰りは、まるで今までとは雰囲気の違う、美しい樹林帯である。幕岩を過ぎれば、終始細かい火山岩の径を歩くので、膝は楽だし足元に注意することもない。まことに歩きやすい径で、これもこのコースの美点といえる。

登山口に帰ってくると、すでに富士山は雲に没していたが、東京組と河口湖駅で別れるときにはまた姿を見せていた。
黒平〜升形山〜黒富士(茅ヶ岳)

黒富士は全山甲府市に属する山なのに、甲斐市か北杜市側からしか登山道がなかった。そこで甲府市側の麓、黒平にある、甲府市の保養施設マウントピア黒平を管理する藤原さんが、かくてはならじと拓いたのが今回登った径である。

その情報を知って初めて登ってみたのが2008年3月のことで、もう8年前とは驚かされる。それですっかり気に入って、同年5月の木曜山行でも出かけたのだった。

黒富士、升形山とはいうものの、その山名の由来を知る人は少ない。それを教えてくれるのがこのコース上にある黒富士峠からの眺めで、そこから望むそれぞれの山容がその由来である。

すなわち各々が、端正な富士山型、そして升型をしている。黒富士の場合は、その左に本物の富士山があり、ことに午後の光では、西日に照らされた富士山と逆光でシルエットになった文字通りの黒い富士が並ぶのである。

初めて歩いたとき、帰りに同じ道を下るのもと思って、升形山から東に延びる尾根を下ったのだが、下部はひどいスズタケの藪で、これはとても一般向きとはいえないなと思ったが、その後、この尾根にも新たに径が拓かれたとも聞いた。その径への興味もあって昨日の計画を立てたのだった。

竜王駅での合流組が3人あって、そのひとりが木曜山行で初めてのアメリカの方である。しかし在日すでに40年になるというから、日本人以上に日本のことはご存知の様子で、うかつなことを言うとこちらの底の浅さがばれてしまいそうである。そこにもうひとり初参加の方も加わって、前週の二ツ塚に続き、新鮮なメンバーでの山行となった。

黒富士峠までの登山道はかなり踏跡が薄くなっており、初心者だけではちょっと不安に感じられるだろうと思った。車道から簡単に登れる今、その3倍もの時間をかけて登る人はやはり少ないということだろう。もっとも簡単に登れるのは観音峠の先にある登山口に車を乗り入れる方法だが、現在、その車道が通行止めのせいか昨日はまったく他の登山者に会わなかった。

晴天だがもやがかかって、黒富士峠ではようやく富士山が見える程度、八ケ岳もかすんでいた。しかし升形山での奥秩父側の展望は近いだけあってすっきりと眺められた。

黒富士を往復したあと升形山東稜に入る。「夕もや尾根」と名付けられているらしい。尾根を捕まえると、最初は急なやせ尾根で、それだけに間違えようはないが、尾根が拡がるとがぜん方向が難しくなる。8年前には繁茂していたスズタケがほぼ枯れてしまっており、どこでも下れるので余計に難しくなるのである。

最初は修正しながら下っているつもりだったが、地形図から察するに、どう下っても傾斜に大差はないし、いずれ必ず往路に交わるのだからと適当に下ったら、目指していた地点のわずか北で往路に出た。それにしても急坂だったから、こういったところに慣れない人にとっては大変だったことだと思う。この尾根もまず一般的ではない。

途中でのんびりしていたので、この季節としては遅い帰着になった。5年ぶりにお会いしたマウントピア黒平の藤原さんにお茶をごちそうになったのでさらに遅くなり、荒川べりを帰る途中にはすっかり暗くなってしまった。

西沢渓谷入口〜甲武信岳〜雁坂峠(金峰山・雁坂峠)

ガイドブック『山梨県の山』では、甲武信岳へ西沢渓谷入口から近丸新道で登り、帰りは徳ちゃん新道を下るというコースを設定してあって、それはとりもなおさず2004年の木曜山行で歩いたコースであった。それからはや10年以上がたっていて、その間、甲武信岳には信州側からは何度か登ったが、このガイドブックで紹介したコースは一度も歩いたことはなかった。要するに、気軽に出かける気になるような簡単な登山道ではないのである。

県別の登山ガイドだからその県側の登路にこだわるのでそんな設定になったのだが、健脚者なら日帰りできるにしても、ちょっと味気ないコースだと思っていた。今度、ガイドブックが新版に改まることになったので、この機会に、甲武信小屋泊を前提にして、雁坂峠まで足を延ばすコースにしようと思った。

そうするにしても写真も古ければ記憶も古い。一度行ってこなければというのが、この計画となった。西沢渓谷の入口から多くの紅葉探勝のハイカーに混じって出発した。

とにもかくにも、10年前にはこれを日帰りしたのかという印象で、好天で暑かったせいもあって、甲武信小屋にたどり着くのがやっとというところであった。

取材したいメインは2日目の雁坂峠への稜線だったが、終始風と霧で、展望はほぼ皆無、ガイドブックに載せるような写真は1枚も撮れなかった。だがそれも仕方ない、久しぶりの奥秩父主稜を、さらに久しぶりの雁坂峠道を歩くことができたのを良しとせねばなるまい(しかし、雁坂トンネル付近の以前の道は跡形もなくなっていてびっくり)。

三ツ峠山(河口湖東部・富士吉田)

ガイドブック『山梨県の山』の三ツ峠山の項では、河口浅間神社から登って天上山に下るコースを紹介している。

1日の行程としては好適とは思うが、天下茶屋までのハイキングバスが通年で動いている今、もっとも楽な方法で登ろうとするのが人情というもので、次の版では三ツ峠登山口からのコースを設定しようと考えた。

勝手知ったる三ツ峠山といえども、府戸尾根を天上山に下ったのは10年以上も前のことである。そこで木曜山行で取材を兼ねて久しぶりに歩いてみることにしたのであった。

河口湖畔から乗り込んだバスにはすでに10人程度の客が乗っていた。数千回は通っただろう御坂峠の旧道をバスに乗って登るのは初めてだった。

朝にはすっきり見えていた富士山は頂上に着くころには雲に隠れてしまったが、富士山以外の眺望は最高で、遠くに白い北アルプスまで山々がくっきりと勢ぞろいした。

府戸尾根は長いが歩きやすい。送電鉄塔の建つ場所で再び展望が開けるが、幸運なことに富士の雲がすっかり取れていた。さんざん見た富士だが、あらためてでかいと感じる。

このコースでの難点は、最後、ロープウエイの駅のあたりが低俗な観光地そのものなことで、もう4時近いというのに昨日はそこが人でごった返していたのでなおさらだった。どうもそのほとんどが中国からの観光客らしい。さっさと通り過ぎて船津へ下ったが、湖畔も日本人以外の人がぞろぞろと歩いていた。時代が変わったのだなあと思った。

今年の計画に戻る  トップページに戻る