雨引山(大町南部)

数年前の秋に登ったとき、この山にイワウチワの群落があることを知り、それならその花期に訪れてみようと去年の春に計画したが雨で中止となった。初回も登頂後には雨となって傘を取り出したものだったが、山名がよろしくないのかもしれぬ。

イワウチワを訪ねる再度の計画も、予報は雨のち晴れという微妙なもので、それでも晴れのち雨よりはよろしかろう、朝方雨が残っていても出発しようと思っていたが、何となく早く雨も上がるだろうとの楽観的な予感が見事に当たり、朝の空はすっかり晴れ渡っていた。

松本平に入ると新雪の常念岳がことのほか印象的だった。有明富士が本家の富士山のように頭だけを雲に隠していたが、雨引山への稜線をたどるようになるころにはそれも取れた。

イワウチワの群落はちょっとした岩場を下った北側の鞍部である。花の時期はむずかしいので心配していたが、見事に咲いていた。やったやったと歓声が上がる。開いているもの、まだつぼみのもの、色の淡いもの濃いもの、変化があって楽しい。イワカガミはどこでも見かけるが、イワウチワの群落は私も初めてであった。

ひとしきりの撮影会が終わると、枝越しに山の斜面を埋める白いものが見えるのに気づいた。最初花崗岩のガレかと思ったが、双眼鏡でのぞくとタムシバの花らしい。少し登ったところからその斜面が眺められた。

こんなにタムシバが山を埋めることがあるのだろうかと帰ってからネット検索してみると、同様のことが各地であるらしい。今年はタムシバの当たり年なのかもしれない。ともあれこれは見事であった。そこでもまた撮影会となった。

その後、若いカモシカが姿を現して、それがじっとしていてくれたので、その撮影会をすることもできたが、私が撮ったのはピンボケ気味だった。

頂上に着いたころには北アルプス北部には雲がかかっていたが、大町市の北には残雪の北信の峰々を見ることができ、その同定に時間を費やした。

連休の前ということでか、他の登山者はひとりもいなかったが、連休には花を楽しむ人が多いことだろう。


小八郎岳(伊那大島)

年前に烏帽子岳に登ったときに小八郎岳にも立ち寄ったことがある。ちょっとこの山だけ登るのでは軽すぎるかなと思ったが、連休中のお手軽登山ということで計画した。名古屋からのやまんばさんと松川で合流、東西合同登山隊が出来上がった。

1100mまで車で登れるので残すところは400m足らずである。径は歩きやすいし、新緑はきれいで、じつにのんびりとしたハイキングである。あまり早く着いても困るので、何度も休憩しながら登った。

駐車場には先発の2台が停まっていたが、烏帽子岳に登ったらしく、小八郎岳の頂上には誰もいなかった。あづま屋の建った頂上は草地で、南アルプスがずらりと一望できる。天竜川左岸には中央アルプスをすっきりと眺められる低山がいくつかあるが、右岸から南アルプスをとなれば、この高さの山では他に聞いたことがない。

好天だが黄砂のせいか山々は霞んでいる。まあ、春はこれくらい見られれば上出来というところだろう。気持ちのいい風にあたりながら、1時間くらいものんびりしてしまった。

福地山(焼岳)

去年の秋にこの山に登ったとき、そのすばらしい展望や、山の樹林の良さに、次は山が新緑で北アルプスに残雪がたっぷりあるときにぜひ来たいねとはやくもその場で計画が決まった。

しかしそれも好天であればこそ、うまくそんな日に当たってくれればいいがと思っていたが、天気の女神がほほえんでくれたとしか言いようのない絶好の日和となったのであった。昨今では珍しい10人のフル乗車となった山旅号は一路飛騨路へと向かった。

安房トンネルを抜けて飛騨の国に入ると新緑の色が信州より一段淡くなったように感じた。まず目に入ってくる笠ヶ岳はまだ雪の部分がほとんどである。乗鞍岳へと高まる、山の北側斜面には、さほど高くないところにも雪が残っている。

福地山の美点はその登山道にもある。林業作業車が登れるように造られた道は傾斜がゆるく、その分何度も屈曲を繰り返すが、まるで散歩でもしているかのように歩ける。顕著な尾根のない福地山だから、この道がなければとても登れたものではない。

登るにつれ緑が淡くなっていき、その後ろにはいつでも残雪の山々がある。秋には感動した頂上近くのすばらしい林ではまだ芽吹いたばかりで、これから6月にかけて美しくなることだろう。

ところどころで開けた展望はもちろん頂上で圧巻となった。先行者はおらず、残雪の山々の展望をほしいままにしての昼休みとなった。結局、我々と、遅れて到着した2人だけがこの良き日に福地山に登ったすべてであった。

ちょうど採りごろのタラやコシアブラがいくらでもある。この山に登る人は山菜に興味がないのか、採られもせず残っている。そのせいか、見たこともないようなタラの大木が登山道のすぐ脇でたくさんの芽を出している。山菜採りに燃えていた頃の私ならせっせと採っただろうが、今ではすっかり淡白になって、目で芽を鑑賞するばかりである。

道の良さは下山のときにこそわかる。もったいないほどの時間で700mあまりを下ってしまった。せっかく福地温泉に来ているのだから、その湯に浸かろうと、古民家を改装した建物に併設されている風呂を使ったが、さすがは高温を誇る温泉地だけあって、少し温度を下げた内風呂はよかったが、露天風呂は熱すぎて誰も入らなかった。入浴料に五平餅が含まれているというおもしろい風呂で、風呂上りにいろりであぶった五平餅を食べるという変わった経験もしたのであった。

板橋川左岸尾根からハンゼの頭(柳沢峠)

去年の暮れに横山さんたちとこのルートを歩いたとき、これはぜひとも新緑の頃にまた来なければと思い、それが昨日の木曜山行となった。

東京都水源林にはところどころの尾根に幅広く切られた防火帯や、縦横に張り巡らされた巡視路があるが、それらを活用することで山歩きのバリエーションが増える。もっとも、それらは一般には公開されておらず道標もないので、自分で歩いて確かめるしかない。

新緑を楽しもうという狙いはずばりと当たった。芽吹いたばかりの木々の色が実に様々なのがよくわかる。しかし、防火線の登りでは地面のワラビばかりに目が行き、周囲の光景を見るのがおろそかになった。

石保戸山の防火線でもそうだが、ここでも亭々としたハルニレなどが残されているのが美点である。ことに樹形の良いブナの大木がすばらしかった。

主稜線に出たところで、ささやかながら山歩大介さんの誕生祝をした。ビールやワインがあけられたが、そんなことができるのもこのルートならではで、足場の悪いところなど皆無なのである。

ハンゼの頭という変わった名前のピークは三窪高原にあるが、もうこのあたりは整備された観光地である。しかし名物のレンゲツツジにはまだ早い時期とあっては人影はなく、ついに終始誰にも会わないまま新緑の山歩きを終えたのだった。

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