葉っぱのうつわ 

暑い季節の食卓には、見た目の涼しさもほしいものだ。
 
なんでもない普段の食事でも、添えられた緑の葉1枚で、ずいぶん涼しげで、ご馳走になるときもある。

以下は『買えない味』(平松洋子/筑摩書房) の一節だ。

「(葉っぱの)緑はたいそう「使える」道具である。饅頭をのせる。チーズをのせる。ドライフルーツをのせる。チョコレートをのせる。…… うつわと食べものの間にひと呼吸、緑が余裕をもたせる。さらには、掌に葉っぱをのせてうつわとして使っていた太古の昔の、のんびり穏やかな空気さえ漂う。…… 庭の葉っぱ、散歩途中の公園の葉っぱ、街のどこにでも、こないだの夕方あんまりツワブキの群生がきれいなので、さんざん迷ったあげく通りかかった近所のうちを思いきってピンポンした、「あのう、すいません」。ひと葉だけいただけますか、そう頼んだらたいそう喜んでくれちゃって、……、だからそのツワブキでことさら大げさに遊びたくて、葉蓋に仕立ててみたかった。私は葉蓋ひとつのためにお客を招んで、冷たいジャガイモのスープを作りました。」

山を歩けば葉っぱだらけ。そこで、プラスチック容器や紙皿、紙箱などを並べた山中の食卓の引き立て役になりそうな葉っぱの幾つかをあげてみよう。

ふき、つわぶき、まるばだけぶきなどの丸く大きい葉は茎を4、5センチ残して切り、茎に近い葉の両隅を引き寄せて重ね、そこに茎を通すと、少し後ろが立った平皿ができあがる。

大型のささ、みょうがなどの葉は、三角に巻くように折って袋状にもできるし、ささ舟の形にして少量の薬味や和え物をのせるのもよい。

ほかに、ぎぼうし、おおばこ、さるとりいばら、木では、ほう、かしわ、かき、くわ、などいずれも口に入れて害のないものなので、それらの葉も大いに利用したいものだ。
 
さて、ずっと昔の夏、奥秩父は笠取小屋の前の草原で、手巻きずしの夕食に何人かが集まった。そして、次のようなお膳立てになった。

すし飯は、コッヘルで米を炊き「玉の井のすしのこ」を混ぜて冷ます。焼きのりの半切り、チューブのわさび、しょうゆをそろえた。

具材は、しらす干しと青じその細切りを混ぜたもの、オクラのたらこ和え、納豆、ちくわの細切り、奈良漬、たくあん、燻製のにしん、厚焼き玉子などをちょうどその草原に生えていた特大のおおばこの葉にそれぞれ盛り分けた。

さらに、塩こんぶと梅干、しらす干、それに近くで採ったみつばをいれて湯を注ぐとなかなかの清まし汁になり、いずれも大好評だった。