からかさだけ・こむらさきしめじ

この10月初めの1日、奥多摩の北秋川側から小河内峠を越えて奥多摩湖畔へと歩いた。朝まで雨が降っていたような気配で、植林下の道はしっとり湿っていた。

1000m近くまで高度をあげていくと、山道の傍らにぽつりぽつりと茸が見られるようになった。

その中に、深編み笠をかぶった虚無僧(こむそう)のような姿の幼菌があった。虚無僧といっても、今の若い方はご存知ないかもしれないが、わたしが子供の頃は尺八を吹いて門付けの托鉢に廻る姿をよく目にしたものだ。

「これはからかさだけ(唐傘茸)だ」と思ったら、すぐその先に、傘を大きく広げた1本が見つかった。

それほど珍しい茸でもなく、何度か見かけていたが、時期が遅すぎたり、虫が入っていたりで、傘が開いたばかりの新鮮なものに出会ったのは、今日が初めてだ。

軸は硬く筋っぽいので傘だけ採ったが、直径20cmもあるので、掌にお皿のように乗せて歩くと、少々持ち重りがした。

まもなく昼食の休憩にしたので、サンドイッチを入れてきた箱に半分に切った傘を交互に重ねると具合よく納まった。

からかさだけは、鍋物、佃煮などにもできるが、油とよく合うので、天ぷら、フライにも向くという。


峠の上でお昼をすまし、下りにかかって間もなく、わたしは気づかずに通り過ぎていたのだが、後から来る橋本さんが「紫色の茸がある」という。それはこむらさきしめじ(小紫占地)で、2本採ったのを頂戴した。

「橋本さんは持って帰らないのですか、わたしが頂いてよいのですか」というと「あした、無事かどうか電話します」と、これは冗談。いずれにしろ茸は安全確認が大切だが、からかさだけ、こむらさきしめじならば、太鼓判をおしていい。

今回は、2種類とも、翌日、天ぷらにして夕食のおかずになった。どちらもくせがなく、ややぬめっとした口ざわりで、特別な風味や香りはない。

なお、からかさだけは加熱すれば安全だが、生食すると中毒の危険があるので要注意だ。