みやまいらくさ・さるとりいばら

みやまいらくさ(深山刺草・深山蕁麻)は、あまり陽の当たらない沢沿いや、春まで雪渓の残るような少し湿り気のある場所を選んで生える草だ。姿はしそに似ているが、葉が互い違いに出ることと、触ると痛い刺毛があるので簡単に見分けられる。摘むときにはしっかりした手袋を用意しよう。

東北の山形・岩手などではアイコと称ばれて、商品にもなる主要な山菜だ。

先日、古書店の投込み台で、『フィレンツェの台所から』(渡辺玲子/晶文社)という20年ほど前に出た本を買ってみた。これを読んでいたら、次のような文章に行きあたった。

すなわち、川べりにたくさん生えていたミヤマイラクサを友人のイタリア女性と摘んだ。それを彼女は茹でて刻み、リコッタチーズと混ぜてパスタの生地で四角く包んでソースをかけて焼いたというのである。

イタリアでも食べるのだと思っていたら、数日もたたないうちに、山の友人から「山形から沢山の山菜がとどいたから」と戴いたなかに、なんとみやまいらくさの一束があるではないか。

これだ、やってみようと、近所のチーズ専門店でリコッタチーズをたずねると、「今日は入荷していませんが、なににお使いですか」というので、「山菜と混ぜてパスタに」と答えると、それに近いものとしてフェタというのを勧められた。

お店の人に「塩が少しきついかもしれない」といわれたので、薄い塩水に崩しいれ、しばらく置いてから水気を切って使うことにした。

みやまいらくさは、塩少量を加えた熱湯でさっと茹でて水にさらし、しぼって細かく刻む。茹でてしまえば刺毛は全くわからなくなる。

刻んだものとチーズをボールの中で混ぜ合わせ、パスタの生地は春巻の皮で代用した。その皮を縦横半分ずつに4等分して、薄い四角に包み、合せ目は水で貼る。

それをフライパンに多めに入れたオリーブオイルで合せ目から先に両面を少し色づくまで焼いた。

「ビールのつまみに合いそう」という人もいて、食べてもらった人たちにも好評だった。

みやまいらくさは、あくやくせがないので、塩を入れた湯で茹でたものを、和風ならば、汁の実、おひたし、和えものなど何にでもなる。


さるとりいばら(菝葜)=さんきらい(山帰来)は、丸い葉を地方によって、柏餅の皮に使うのは知っていた。また晩秋に丸く密集して真っ赤に色づく実を、赤い実のならない日本ヒイラギの実に見立てて、クリスマスのリースなどに使うのも知っていたが、この鋭いトゲのある蔓の新芽が食べられることは最近になって知った。一度試してみたいと思っていたが、実のあるときほどには目立たないし、あまり群生もしていないのでなかなか機会がなかった。

6月の初めに相模湖の西のほうに延びる低い山を歩いた折に、ようやく10本ほどの新しく伸びた茎先を摘むことができた。同じ尾根で集めたあけびの芽と合わせて、その晩、コンソメスープにしてみた。

両方ともあくがあるので、それぞれ茹でて水にさらしてから使ったが、ほのかな苦味がきいてそれなりにおいしく食べられた。でも人によっては、嫌われるかもしれない。スープの浮身ほどの少量がよいだろう。