ぼたん・あおき

ぼたん(牡丹)は、古くは中国から来たのだが、それは1000年も前のことで、

「ほうたん」として『蜻蛉日記』に記されているのが、本邦の文献に載った最初だという。また、『枕草子』『千載和歌集』にも載っているのだそうだ。

花の王者のようなぼたんを食べようとは、まことに豪勢な話だが、ずいぶん古くから食用にされていたらしく、その頃は煮て食べていたようだ。

ぼたんは大きな花を咲かせるためと、また、2度咲きの寒ぼたんは2度目の花を冬に咲かせるために、いずれも春先の蕾のうちに剪定するのが普通である。そこで、その剪定して取った蕾を天ぷらにして食べるのだという。蕾を上下から押して平たくして衣をつけて揚げるのだそうだが、どういうわけだか白い花の蕾が一段と美味しいという。

「牡丹切って 気のおとろひし 夕かな」。 蕪村の句だが、咲き切った時に、次の年の花を立派に咲かせるために、散るのを待たずに切るのがよいそうだ。

花弁を1枚ずつにばらして天ぷらにしてもよいし、酢を落とした熱湯をくぐらせて、たっぷりの甘酢に浮かすようにした酢の物も美しいという。

こうした料理は、ぼたんというだけで豪華なお膳が目に浮かぶが、わたしはまだ試したことはない。なお、以上の料理法は『続 山菜入門』(山田幸男・三重子/保育社・カラーブックス)によった。


あおき(青木)は、もともと照葉樹林におおわれていたらしい関東南部の椿や馬酔木の下生えとして生きてきた木ではないだろうか。いまも、場所によっては、かなり密な群落が残っている。

また、庭木として植えられていることも多く、わたしも子供の頃に、その赤い実をままごとのリンゴとして遊んだ覚えがある。
 
しかし、当時はあおきが食べられるとは思ってもみなかった。でも、それが、あるいは食べられるのかもしれないと考えたのは、大町の山岳博物館で飼われているカモシカに青木の葉を与えていると知ったときだった。

その後、山菜関係の本で、若葉を佃煮にすると読んだが、それにはかなり大量に煮なくてはならないと思い、ついぞ試したことはなかった。

ところが、『街で見つける山の幸図鑑』(井口潔/山海堂)で、茹でて水にさらし刻んで味噌炒めにするという料理法を知り、その通りにやってみると、若緑が美しく、かつ癖のないなかなかのお味だった。