きく・りゅうのうぎく

きく(菊)は、古く中国から伝えられたという。訓読みの名がなく、音読みがそのまま和名になっている。

観賞用の花は種類も多く、いろいろな造り方をされているが、花を食用として栽培される品種もあり、とくに山形県ではその栽培が盛んなようだ。

食用菊は黄花が多いのだが、山形の〈もってのほか〉という名の花は割合大輪で、白地に紅紫色の差した美しい花だ。

数年前に、以前に大菩薩の介山荘で管理人をしていた故佐藤勤さんの奥さんで、いまは米沢市に住む淑子さんから、この花を送ってもらったことがあった。

料理法を聞くと、酢を落とした湯にくぐらせてから水にとってしぼり、おひたしや酢の物にするとよいとのことだった。わたしは、この花弁を大根の繊切りにまぜた「きくなます」が好きだ。

きくの花は、白か黄のもので、農薬などを使わないで育てたものならば、みな食用になるが、味は平たい幅広の花弁のものよりも根元が管状の細いもののほうがよいそうだ。花をそのまま天ぷらにしてもよく、葉も同様に揚げて食べることができる。

きくといえば、お酒の好きな人には菊酒だろう。酒にきくの花びらを浮かべて、旧暦9月9日の重陽の節句に不老長寿を願って飲む酒だ。

中国は河南省南陽県の白河の支流の源に大菊が咲き、その花から落ちる滋液を飲んで長寿を得たという故事から菊酒が生まれ、これを日本の甲斐国(山梨県)の菊花山(大月市、その山中から菊花石が出る)と桂川に当てはめた記述が『風土記』にあるという。

この菊花山と桂川については、『花の民俗学』(桜井満/講談社学術文庫)で読んだ。


りゅうのうぎく(竜脳菊)は、低山の日当たりのよい斜面などで、晩秋によく見かける白花の小ぶりな野菊で、ノコンギクやヨメナなどよりも幅広の花弁と葉の形が栽培された小菊によく似ている。

寒さが加わると花弁は一部赤味を帯びピンクの花に見えるものもある。

食べるのには、花も葉も姿のまま天ぷらにするのがよいだろう。

りゅうのうぎくという名の謂れは、竜脳樹の精油からとれる結晶の芳香に似た香りがあるからという。

なお、春の新芽はヨメナなどと同様に食べることができる。