またたび・さるなし

またたびは、低山の道端や沢ぞい、林の縁などに生える蔓性の木で、初夏に白い5弁の花が咲く。夏には葉の先半分ほどが色が抜けて白くなるが、これを知っていると見つけやすい。また、その葉先がピンクに染まるものはミヤママタタビだという。

8月末から9月にかけて、2~3cmの細長い実が数個づつ実る。

先日、吾妻小舎へいったおりに、小舎の遠藤さんから、その実を少し分けてもらった。果実酒にする人が多いようだが、わが家ではアルコールを嗜む人がいないので、漬物にしてみることにした。

海水ぐらいの塩水を煮たてて冷まし、洗って乾かしたまたたびの実を漬けて2~3日置いた。漬かった実の萼を除いたあと、数個を細かく刻み、サラダに混ぜたり、カレーに加えたりして食べた。少々の渋味と苦味が、それぞれに味のアクセントになったようだった。

果実酒には、虫が入ってデコボコになった虫癭のほうがよいという人もある。いずれにしてもまたたび酒はかなりくせが強く、その薬効をねがって飲む類のものらしい。

またたびは、猫族がたいへん好むもので、昔、家で飼っていたチビも、山のお土産にまたたびの蔓を少し持ち帰ると、ゴロンと横になってなめたり齧ったり、ヨダレを垂らして酔ったようになっていた。

これは猫科の猛獣の虎でも同じだと聞いたことがある。


さるなし(猿梨)は、こくわ、しらくちづるという別称もある。またたびと同じマタタビ科だが、葉も実もまたたびより丸みを帯びている。

いまよく食べられている果物のキウイと近縁というだけあって、ごく小形のキウイと言ってよいほど似ている。切るほどの大きさはないのだが、輪切りにして見ると、黒い放射状の点々がはいっているところなど、そっくりだ。少し酸味のある、さわやかな甘さもよく似ている。

山梨県河口湖の出身で、いままたそこにお住まいの渡邉玉枝さんが、「子供のころ、さるなしのよく熟れて霜にあたって甘くなったのを<やまぶどう>といって、おやつによく食べたのに、このごろはめっきり減ってしまった」と話されるのを聞いた。わたしも、里近い自然のなかに豊にあったそういう植物が減ってしまったのを残念に思った。

さるなしは砂糖煮にしてもよいし、肉などの料理のつけ合わせにもなる。

また、ホワイトリカーやウォッカに漬けた果実酒はほのかな甘みがあって、まろやかなリキュールになるそうだ。