ひめこうぞ・うわみずざくら

ひめこうぞ(姫楮)は、昨年7月の初めに、中央沿線の里山歩きの折に見つけた。

川を渡った車道が大きくカーブしながら登っていく道路の法面に、桑に似た潅木が多く生えていて、赤いガラスビーズを集めたような実がぽつぽつとなっていた。

熟していそうな一粒を口に入れてみると、甘い汁がジュワーと出たが、ざらついた感じが舌に残った。

家に帰って調べると、クワ科のヒメコウゾと出ていて、和紙の材料として知られるコウゾは、これの栽培種であり、近い仲間のカジノキ(梶の木)にも、もっと大形の同じような実がつき、それも食用になることが判った。

ざらざらと口に残るのは雌しべで、これを濾してジャムやジュースにするとよいそうだ。


うわみずざくら(上溝桜)の花は、一見さくらとは思えない、細長い穂状の花で、4〜5月に咲く。しかし、よく見ると個々の花はさくらの名にたがわず5枚の花びらを持っている。

この蕾や若い実を、福島や新潟の人たちは杏仁子(あんにんご)と称んで塩漬けにして賞味する。びん詰などでお土産に売っていることもある。

実の若いうちは果実酒にしてもよいそうだ。いずれも、よい香りがする。

花は塩茹でにすると、香気があって酒の肴によいという。

上溝桜の名の由来は、昔、亀の甲を焼いてできた割目の模様で吉凶を占ったが、その亀の甲の代用にこの木の材を使ったらしく、木の上側に溝を彫ったことによると『大辞林』に出ていた。