やぶかんぞう・よぶすまそう

やぶかんぞう(藪萱草)は、梅雨のころ、道端の斜面や畑の縁などに赤味の濃いオレンジ色の花を咲かせる。昔は住宅地などでもそう珍しくはなかったが、今は街中では見られないかもしれない。

『街でみつける山の幸図鑑』(井口潔/山海堂)によれば、エディブルフラワーの最上のものだという。

春先の葉の芽が出たばかりのものは、わたしも子供のころから、おいしい野草だと知っていたし、この「山菜と摘草、その9」に書いたように、毎年、春になると食べていたが、花が食べられることは初めて知った。

わが家の庭のやぶかんぞうが、今年は3本花芽を伸ばしていたので、次のようにして味わった。

本に書かれていたとおり、翌朝に咲くくらい育った蕾を摘んで、酢を落とした湯で茹で、水にさらしてから、芥子酢味噌で和えた。

軽いぬめりとしゃきしゃきした歯ざわりが混じりあって、食感はなかなかのもの。あくやくせもなく、おいしく食べられた。


よぶすまそう(夜衾草)と、いぬどうなは近い仲間で、よぶすまとはコウモリのことだという。別にコウモリソウもあって、これも同類の植物だ。いぬどうなについては、名の意味も、どんな漢字を当てるのかもわからない。

よぶすまそうを知ったのは、もう40年も前、深田久弥さんのお宅に伺った折に、「大町の古原先生のところから、ちょうど着いたばかり。あちらではうどふきというそうですよ」と奥様から頂戴したときのことだ。 

図鑑などには「関東以北に分布する」とあるが、奥多摩や奥秩父辺りでは、小形のコウモリソウは見かけても、それよりはずっと大きいよぶすまそうや、いぬどうなは見当たらない。

今年の6月に、遠野三山の一つ、六角牛山に登ったときに、その麓で久しぶりに目にすることができた。

食用には、若い茎を茹でて皮をむき、ふきと同じように調理する。うどふきと称ばれるように、うどとふきに似た香気があり、中空の茎にはしゃきしゃきした歯ごたえがあっておいしい。