さくら・こぶし
 
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さくら(桜)といえば、いま、わが家には「君を待たしたよ さくらちる中をあるく」という、大叔父碧梧桐の軸がかかっているが、木花之咲耶姫の昔から日本人の人生のあらゆる面で、これほどかかわりあいの深い花はないだろう。

花を愛でるばかりではなく、さくらは食材としても色々に使われている。

八重の花の5、6分咲きを塩漬け保存したものは、ふつうは、さくら湯として飲むが、そのほかには適度に塩抜きして刻み、ご飯に混ぜて桜飯にしたり、ちらし寿司に加えたり、さらにはケーキやクッキーの材料に混ぜて焼いたりもされる。近ごろは、さくら入りのアイスクリーム、ヨーグルトなどもある。

また、その葉も塩蔵したものを塩抜きして、桜餅を包んだり、おむすびに巻いたりするし、酢締めした白身魚を包んだりするのに使われる。

さくらのチップで燻した燻製はおいしい。それになにもチップでなくても「山で落ちている小枝を拾ってきて燻せばいいのよ」と教えてもらった。小枝や樹皮は草木染の材料としても重んじられているいるという。 

余談だが、わたしの子供のころは家の暖房には炭火のこたつや火鉢が使われ、その上等の木炭には桜炭というのがあった。直径7、8pの丸木で放射状の割れ目が美しい炭だった。桜炭というので、てっきり桜の木を焼いた炭かと思っていたが、これは千葉県の佐倉で焼いた炭に桜の字を当てたもので、材はくぬぎ(椚・櫟)の木だと聞いた。

 

こぶし(辛夷)は日本の野山に多く自生するほか、庭木としてもよく植えられている。農村ではこぶしの開花を見て田仕事を始める地方もあると聞いた。わが家にも60年ほどになる大木が1本あって、花どきには花の反射で部屋の中まで明るくなるほどだったが、枝をおろしすぎたために、今年は花を見られなかった。

なお、この花が食用になるということは、近頃、あらためて読みなおした『続山菜入門』(山田幸男・三重子/保育社カラーブックス)の記述で知り、花の咲くうちに試しておけばよかったと残念に思った。

同書によると、その食べ方は以下のようだ。

花が開き始める寸前のものを摘んで、毛皮のような萼を取り除く。それを塩を加えた沸騰湯で湯がき、冷水にさらして水を切ってから二杯酢に漬けておく。そして、一度取り出して根元の固い所に包丁を入れて中の固い部分(雌しべ、雄しべ)を取り除く。さらに、もう一度漬汁に戻しておき、食卓に出すときに新しい二杯酢を多めに作って、その中に浮かべるようにする。

こぶしの花には、6月ごろまでの残雪の山に行けば多く出会えるので、ぜひ、試してみたいと思っている。

こぶしによく似たハクモクレン、タムシバの花も同様にして食べられるそうだ。