ななかまど・いちい

秋の関東周辺の山々で、まず赤く色づいた実の美しさが目をひくのは、ななかまど(七竈)ではないだろうか。はじめは実だけが赤くかがやくようになり、すこし遅れて葉も赤く染まってくる。初雪が舞ったり霜がおりるようになると葉は散ってしまうが、実は最後まで残っているのが多い。そのどの時期にもそれぞれの美しさがある。

ななかまどは材が堅く7回も竈に入れても燃え尽きないのが、名の由来だという。

このきれいな赤い実で、果実酒やジャムを作って楽しむ人も多い。


いちい(一位)には、アララギ、キャラボク、シャクノキ、スオウ、ヤマビャクダンなど多くの別名があり、北海道から東北地方ではオンコ、オッコなどとも称されているそうだ。

常緑の針葉樹で雌雄の別があり、雌株には晩秋に赤く柔らかい実が熟す。

条件のよい所の木は濃い緑の葉をびっしりつけた美しい円錐形になり、点々と赤い小さな実がつくと天然の灯りをともしたクリスマスツリーのようだ。そんな1本を20年ぐらい前だろうか、富士五湖周辺の別荘地で見た覚えがある。

この赤い実は甘い果汁が出て食べられるが、黒く固い種は毒なので呑みこまないように気をつけなければいけない。

また、この木は緻密な材で香りもよい。それでこの木を使って神官が持つ笏を作った。シャクノキはそれからきた名で、いちいという名も、それによって仁徳天皇がこの木を正一位に叙したことによるのだそうだ。建材としても使われるし、一刀彫りなど様々な細工物、家具の材料になっている。

奥多摩の長沢背稜に水松山(あららぎやま)という山があるが、「之はイチイ科の水松の大木を伐り出したのでこの名を得たのである」と、『奥多摩』(宮内敏雄)に書かれている。

《「ななかまど・いちい」については、『日本の樹木』(辻井達一・中公新書)に教えられるところが多かった。》