たまごたけ・はないぐち

たまごたけのシーズンは夏が終ろうとする頃だ。この茸をおぼえたのは、もう40年も前で、きだ・みのる=山田吉彦(仏文学者)の『気違い部落周遊紀行』という本だったと思う。

きだ・みのるは、第二次大戦中に恩方村(現八王子市)に疎開したあと、戦後もしばらく住み続けて、その集落の人々との生活などを題材に、ほかにも『気違い部落紳士録』『霧の部落』などの本を書いた。

その中の1篇に、つぼからまだ顔を出さないたまごたけの幼菌を採ってきて、夜、子供の枕元にその卵のような茸を置いてやると、翌朝、目を覚ました子供が、卵からかえったような赤い茸を見て、びっくりしたり大喜びしたりする様子が書かれていたし、また、村の人たちは「こんなウザッタイ(怪しげな)もの」といって食べないが、バター炒めにするとおいしい茸だともあった。

それで、わたしは次に山へ行ったときに、この記述どおりの茸を見つけて食べてみたところ、ほんとうにおいしかった。
 
たまごたけには、よく似た毒茸べにてんぐたけがあるから注意しなくてはいけない。

たまごたけの傘には、縁のほうではっきりしている放射状のすじがあり、軸には黄褐色の模様がある。
 
べにてんぐたけの傘には、白いつぼの破片が点々とついている。軸は白く模様はない。


はないぐちは落葉松林に生える。傘の裏がひだでなく、スポンジのような管孔になった茸の仲間だ。
 
最初にこの茸を見たとき、わたしはどら焼きの皮を思い浮かべた。傘の表側はこんがり焼けた狐色、裏はやや鈍い黄色でプツプツと孔があり、大きさも直径7〜8cmだった。

奥秩父、笠取小屋の田辺正道さんに「この辺じゃ、じこぼうという」と教えられた。同じイグチの仲間にはヌメリイグチなど何種類かあるが、どれもじこぼうとひとくくりにしていっていたようだ。

はないぐちは、汁の身にしても鍋物に入れてもよいが、わたしは茹でて小さめに切り、おろし和えで食べるのが好きだ。

傘裏の管孔部が消化しにくいといって、むいて捨てる人もあるが、あまり気にすることはないと思う。

私がおぼえたころは、傘の裏が網や管孔になった茸には毒はないといわれていたが、その後、この型の茸のなかにも有毒なものが見つかっているので注意が必要だ。