やまゆり・うばゆり

この8月1ヶ月の間、あまりの暑さにぼうとしているうちに、少し季節遅れになってしまったかもしれないが、それはそれとして夏の野山に咲くゆりのことを書いてみたい。

やまゆり(山百合)は美しい花と強い芳香で印象的な花だ。近年、東京の近郊では、その大群落などは見られなくなったが、それでも夏の低山歩きで、運がよければ2,3本は見かけることができるだろう。

20年以上前のことだが、仙山線沿線の北面白山に登って、長七郎平という高原台地に下りてきた時は、思わず歓声をあげた。一面の草むらのなかに点々と何十本ものやまゆりが、それぞれ何輪もの花を開いていた。あれほど多くのやまゆりを一度に見たのは、あの時が最初で、おそらく最後だろう。

やまゆりの百合根は大型で白く、苦味もないので珍重される。百合根を掘るのは、地上部が枯れた晩秋、初冬がよいので、夏にその在りかを見つけたら、傍らに麦を数粒蒔いておき、晩秋に芽が出た麦を頼りに掘り当てるのだと聞いたことがある。


うばゆり(姥百合)も大型のゆりだが、山林下のうす暗い所に生えて、蒼白と形容したいような緑がかった白い花を数個ひっそりとつけている。筒状の先だけが僅かに開いた花は寂しい佇まいだ。場所によっては、少し不気味な感じさえするかもしれない。

うばゆりは、その葉がほかのゆりと違い、幅の広い縦長のハート状をしていて、高い茎の根もと近くにだけ広がっている。そして花の咲くころにはほとんど枯れているので、姥という名がついたらしい。

うばゆりは初冬のころに実になると、網目状に乾いた鞘が明るい印象に変わり、ドライフラワーの花材にも使われる。

根茎の鱗片からは上質な澱粉が採れるという。