うこぎ・ふじ

春は、草木の育つ季節、あっという間に移り変わっていってしまう。うこぎもふじも、やや遅れ気味になってしまったが、ごかんべんを。

うこぎ(五加木)は、幹にとげがあるので垣根として植えられることが多いようだ。

関東ではあまり食用にしないらしいが、20年も前に出た『大地からの贈り物』(太田愛人・中公文庫)に「ウコギの菜飯 カワハギの肝」という一文があって、それにはウコギ飯だけでなく〈ウコギのホロホロ〉という、茹でてきざんだうこぎと、残りものの味噌漬、または古沢庵のみじん切り、くるみのつぶしたのを混ぜ合せたものが紹介されている。ご飯にのせても、酒のつまみにもよいそうだ。

昨年出た『天然ごはん』(高橋博文・五月書房)にも、ウコギ飯、佃煮、天ぷらなどが載っている。

少し前に、開いたばかりのうこぎの新芽を、福島の遠藤さんから送ってもらった。早速、うこぎ飯にしたのはもちろん、天ぷらにも佃煮にもした。それぞれに春の香る味わいを楽しむことができた。うこぎ飯が一番簡単で、昆布をのせて炊いたご飯に、細かくきざんだうこぎに塩をまぶして、一緒にむらし、盛りつける前に混ぜるだけでできあがる。


ふじ(藤)は、近年温暖化のせいか、東京あたりでは四月中に咲いてしまうことが多いのだが、『花を旅する』(栗田勇・岩波新書)では、五月の項にあてている。この本によると、ふじは、本当に古くから日本人に親しまれてきた植物で、『日本書紀』『古事記』にもしばしば登場し、不思議な霊力のある木とされ、古代には衣服や弓矢、靴の材料にまでされていたという。

街中のふじは、棚作りで名園の呼びものになっていたり、立派な盆栽に仕立てられたりして、自然のものというよりは人工物に近い感じがつよい。でも、山へでかければ、都会よりは少し遅れて、野生のふじの花はのびのびと、ほかの樹木に這いのぼったり、沢の流れに枝先を浸したりしながら、美しい紫に自然を飾っている。

そのふじが食材にもなるのだ。『日本の樹木』(辻井達一・中公新書)によると『大和本草』に「葉若き時、食うべし」とあるそうで、若いつるは茹でて、浸しもの、和えものになるし、花も天ぷらの彩りとしてもよし、茹でてサラダ、酢のものにしてもよい。