かやの実・えのきたけ
 
 
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かや(榧)は自生もあるが、庭木としてよく植えられているという。

子どものころ、家近くの天神様にも大木が1本あった。秋になると実が落ちて、いって食べたことがあった。榧の油は上質で、榧油の天ぷらはとてもおいしいと教えられた。また、昔、電灯がなかった時代には灯油として使われたともいう。

先日、吾妻小舎の遠藤さんから、わたし達夫婦の好物、干柿がとどいた。豆や餅なども入ったその小包の中に1袋の榧味糖(かやとう)があった。創業120年という老舗のもので、褐色の手づくり飴に榧の実がちりばめられている。素朴な懐かしい味で、二階で仕事をしていて階下におりるたびに1つ口に入れていたら、あっという間になくなってしまった。

榧の木は材も緻密で水に強く、昔は桶や舟の材として使われたという。また、榧材で作った碁盤、将棋盤は最高級品とされている。

 
 
えのきたけというと、店頭に並ぶ袋づめの細く真白なきのこを思いうかべる方が多いかもしれない。

同じきのこなのに、自生のえのきたけは全く違う姿形をしている。山でえのきたけが採れるのは、秋も終わりのころから冬にかけてで、別名ゆきのしたとも称される。わたしが初めて見つけたのも、お正月過ぎに登った阿武隈は鶴石山登山口近くの、うっすらと雪をかぶった切株に生えているものだった。同行した福島の方から、えのきたけと教えてもらい、このきのこは軸の根元にビロードのような黒い毛がついているのが特徴だと聞いた。

そのえのきたけが、わが家の庭に出ているのに気づいたのは2004年の初冬だった。植えてあったむくげ(木槿)が前年夏の猛暑によって枯れてしまい、それを切った切株に顔を出したのだ。最初の1株は、まさか東京の住宅地にと、半信半疑でつい捨ててしまった。つぎに出たのは、やはりえのきたけらしいと恐るおそる1本だけ食べてみた。おいしかったし、なにも異変は起こらなかった。「あぁ、最初の分は惜しいことをしたな」と現金なものだ。その後にたまたま読んだ新聞のコラムに、えのきたけは都会の公園や庭の木にもよく出るきのこだと書いてあった。以後、昨年の暮れまで、毎年、その味を楽しんでいるが、今後いつまで出てくれるだろうか。