38. 保福寺峠、二ッ石峰      2004(平成16)年11月9日

よく晴れた秋の一日、ウェストン師ゆかりの保福寺峠に行き、ついでに近くの二ッ石峰1563.3bにも登ってきましょうと、岩瀬晧祐さん(既出)が車を出してくれて、大森久雄さんと私たち二人、北アルプスの眺めが素晴らしいというこの峠へ、かつてのウェストンさんと同じように、私たちも上田側からあがっていった。ただし、明治24(1891)年8月2日の強烈な日差しの午後、ウェストンさんが汗を拭き拭き(に違いない)歩いて登った峠道を、113年後の今日は車に座ったままの楽ちん極まりない超特急、おまけに「さっき、道の駅で買ってきた岩瀬さん推奨のWまい泉Wのカツサンド、ほんとにおいしそうですね、お昼はどこにします、早く食べたいですね」なんて、好き勝手をいっている。

今はいざ知らず、この時は峠からの眺めは周りの林にさえぎられて皆無、二ッ石峰に登って初めて北アルプスの連なりを見ることができた。しかし、それも林のすいた間からの、広々とした大展望ではなくて、もう一つ不満が残った。私としては、むしろ登山道の途中で得られた上田側の眺めのほうが感激で、岩瀬さんを前景にした噴煙たなびく浅間山の写真は、その日と岩瀬さんを思いだす1枚となっている。なお、峠へ戻って一休みしている時、車道の向こうに小さな標識らしきものを見つけた。行ってみると「ウォルターウェストン 日本アルプス絶賛の地入口」とある。山が見えるのかもしれないと少し行ってみると、眺めは云うほどのものではないが、大きな石造りのウェストン絶賛の地の記念碑があったのにはびっくり。「えらいものがあったよ」と、みなを呼びに行き、記念碑の前で、こちらの記念写真を写した。それにしても、これだけのものを手間暇と大金かけて造ったならば、ただ「絶賛の地入口」だけではなく、記念碑があることを教えておいてもよいのではないだろうか。峠そのものの上では、落葉松の黄葉を背景の馬頭観音碑がなかなかだった。

補記

1.「午下がりの夏の日がカッと照りつけていた。四五〇〇フィートの峠の峰に着いたのは午後六時。尾根の窪みの左側に小さな円丘があって、その上に立つととつぜん目の前に憧れの大山脈が姿を現した。まったく予期しない眺望の展開だったから、そのすばらしさにただただ驚くばかりだった。……日本のマッターホルンともいうべき槍ヶ岳や、ペニン・アルプスの女王ワイスホルンを小さくしたような、優美な三角形の常念岳、それからはるか南にどっしりとした乗鞍岳の双子峰。それぞれ特徴のある山の姿が私の目にやきついた。」(『日本アルプスの登山と探検』ウォルター・ウェストン著、青木枝朗訳/岩波文庫)。

2.この8年後の2012年の10月4日、当ロッジご主人の車で富田雄一郎さん、木村久男さんとともに、再度、保福寺峠、二ッ石峰を訪れる機会を得た(参考)。初秋の好日だったが、二ッ石峰からの北アルプスはぼうっとした青空に溶け込んでいて、あまりよくは見えなかった。前とは逆方向の松本側からの往復で、帰りには保福寺町、保福寺道、保福寺峠などの名の因になった保福寺に立ち寄った。山号を永安山といい、山門の脇に大ワラジが吊るしてあるなど、いかにも街道(東山道)筋にある寺のたたずまいだった。   (2018.12) 

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