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山と溪谷社刊の『東京周辺の山350』に書いたガイドです。これは僕が提出したそのままの文章で、例によって書かずもがなの表現が多いため、編集の段階で(面白おかしく書いた部分は)ほとんど削られています。それはそれ、この方を面白がる人もまたいるかもしれません。個人のガイドブックではないので、仕方ありませんね。実物の本をお持ちの方は較べてみるのも面白いかもしれません。ともあれ、藪山愛好家の隠れ名山だったこの山も、その頂上に立つだけなら、造作もないことになりました。でも尾根伝いに縦走するとなると、興味深いルートがまだいくつもあります。富士急沿線は僕の青春の地ですので、あのあたりを歩くと、なんか複雑な思いにかられます。

九鬼山

●猿橋駅 朝日小沢→鈴ヶ音峠(鈴懸峠)→九鬼山→札金峠→田野倉駅●歩
行4時間20分・一般向/体★★技★★☆危★

時速500キロのリニアモーターカーが数十秒で貫くこの山を数時間かけて
歩くなんて、登山という現代的な遊びを象徴しているようでおもしろい。山
帰りにリニア実験線を見学でもすればまったく馬鹿馬鹿しくなってしまうだ
ろう。もちろん実験線がである。

コースの特徴

鈴ヶ音峠までタクシーを使えば、もう標高720メートルに立つ人である。
九鬼山まで多くの細かい登り降りはあるものの体力的には大したことはない
が、距離はあるので★★。技術的には、鈴ヶ音峠〜九鬼山は概して薮尾根で
道標もまずないので★★☆。薮道が不安な向きは富士急行線禾生駅から九鬼
集落を経て二本の登路がある。それを登って札金峠に下れば道標完備で★★。
危★は迷わずに歩く分には危険は少ないことによる。

適期

鈴ヶ音峠から歩く場合、薮の薄い11月下旬から4月上旬くらいが適期と
なろうが、九鬼山から札金峠への下り出しに急なやせ尾根があって積雪時は
注意が必要。九鬼集落から登るなら薮の心配はない。新緑の4月中旬から5
月上旬、紅葉の11月あたりが最も美しい時季となろう。もっとも、真夏に
登ったとしても、物好きと思われるだけで別に危険があるわけではない。下
山後うまいビールを飲むのが目的ならこれ以上の適期はない。

アドバイス

札金峠から下るまでは水は得られない。富士山のみならず、大菩薩、奥多摩
などの山々の絶好の展望台なので、20万分の1地勢図と双眼鏡を持って行
けば、なお一層楽しめる。

《コース解説》

●鈴ヶ音峠−桐木差山(30分→←20分)

鈴ヶ音峠への最寄りのバス停は大月側なら朝日小沢上、都留側なら朝日馬
場の神社前になる。どちらからも峠まで一時間程度の舗装された車道歩きで
あるから、その間のことは割愛し、すでに峠の人となっているとして解説し
ていこう。なお、林道の峠は鈴懸峠と呼ぶのが今では一般的である。
市界尾根に踏み込むと、最初はゆるやかだった登りはすぐ急になり、同時
に薮がかかり始める。まだ葉の落ちない頃ならばうっとおしく感じられるだ
ろうが、道はしっかりしている。やがて行く手の赤松越しに富士山がのそっ
と現れ、桐水差山と書かれた杭の立っているピークに着くが、これは桐木差
山の誤記だろう。地図上の標高点854である。

●桐木差山−九鬼山(2時間→←1時間40分)

桐木差山の次のピークには高指と書かれた杭が立っている。そこからいっ
たん急に下る。行く手には目指す九鬼山が見え、その左に三ツ峠のアンテナ
群が光っている。登りかえした830m峰で南に方角を変える。東から朝日山
(赤鞍ヶ岳)、菜畑山、今倉山、二十六夜山と続く稜線が目の前となり、そ
れらを歩いた人ならば一服して同定に時間を費やしたいところだ。恩賜林界
標が点々と埋められた尾根は、概して大月側は杉、檜、赤松の植林で暗く、
都留側は自然林で明るい。やがて871m峰の登りにかかる。この登りがこの尾
根ではもっとも急である。しかしそれもわずかな距離だ。この871m峰か
ら次のふたつの900m圏峰まで、その鞍部は小広く明るい平地となってい
て、気分のいい所だ。914m峰からは刈り払いがしてあって薮から解放され
る。尾根の右側は植林の檜がまだ幼木で展望が利く。振り返ると来し方の尾
根が見渡せ、短い距離ながらそれなりに縦走の喜びがわいてくる。すぐそこ
に見える九鬼山に鼻歌でも唄いながら緩やかに登っていくと、九鬼集落から
来る杉山新道分岐である。さらにひと登りで富士見平。恥ずかしいくらい富
士が自己主張している。ここでも九鬼集落からの道を合わせる。そしてわず
かで頂上である。富士山こそ植林に隠れるが、最近伐採された西側から北側
に展開する大菩薩や奥多摩など無数の山々の展望はむしろ通好みである。

●九鬼山−札金峠(1時間→←1時間30分)

三角点から北東に延びる尾根をまず下るが、急なやせ尾根なので慎重に。
しかし、それもわずかな距離でなだらかな鞍部へ着き、今度は市界尾根に向
かって山腹をトラバースする。頂上からこのあたりにかけては自然林が豊富
に残ったところで、ことに新緑や紅葉に時季にはうっとりとするだろう。里
から近い山とは思えない奥深さを感じさせる場所でもある。やがて市界尾根
にのるとすぐに紺場休場という小広い平地がある。尾根をからみながら下る
と堀割状になった札金峠に着く。

●札金峠−田野倉駅(50分→←1時間)

植林の暗い道を下ると、20分もかからずに林道に飛び出す。あとは沢沿
いの林道を下るだけである。富士急行線の踏切を渡る前を右にとれば、国道
を歩かずに田野倉駅へ行ける。

●コースタイム

JR猿橋駅(富士急行バス15分)朝日小沢上(1時間10分→←1時間)
鈴ヶ音峠(30分→←20分)桐木差山(2時間→←1時間40分)九鬼山(1
時間→←1時間30分)札金峠(50分→←1時間)田野倉駅

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