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森林書房『遊歩百山』6号に書いたものです。ガイドを書くことになって、もう一度同じ道を歩いてみました。意識して歩かなければ、なかなかガイドが書けるような記憶とはならないものです。小楢山は、母恋しみちを登って、父恋しみちを下ればちょうといい周遊コースになり、丸一日楽しめます。少々藪慣れた方なら、南頭、妙見山を経て下るのも面白いと思います。

去年(2004)久しぶりに訪れてみたが、中腹を横断する林道工事中、これが開通すれば、マイカー登山では「フフ」から登る人は激減することでしょう。10年一昔といいますが、5年もすれば、まるで変わってしまうのが現代の山麓風景かもしれません。

                           小楢山

最近は車を使えば、ひと昔前では考えられない程、楽にアプローチできる山が増えた。だが、あまりに楽に標高を稼ぐと、その山に対して後ろめたい気分がする事も確か。

今回の小楢山も、数年前に焼山峠から楽にピストンさせてもらっていて、ピークは踏んだものの、何となく心に引っ掛かりを残していた。この山は、塩山あたりからいやでも特徴ある山容が目に入って来て、目立つ方向から登ってみたくなるのも人情というもの。

しかもそのルートは、母恋しみち、父恋しみちとなんだか妙に修身めいた名前が付けられているが、その由来をまだ聞かない。それも興味深い。また横山厚夫さんの本(一日の山・中央線私の山旅.実業之日本社)に幕岩という岩場があって、そこに若い二人がトカゲをしていて青春そのものだった云々とあり、そこへも行かねばならない。そこでトカゲしなければならない。

というわけで、前回が落葉しきった12月の末だったので、今度は新緑のみずみずしい五月の末を選んだ。

山梨県在住なので、県内の日帰り登山ではつい朝寝坊してしまう。河口湖の自宅を車で出発したのが九時半。牧丘町に達した時には10時半を回っていた。メンバーは、毎度変わらない、私とつれあいの長沢山岳会。チーフリーダー、私。サブリ−ダ−、つれあい。

牧丘の市街地で国道140号線と別れ、左に塩平方面に向かう。100メートル程で信号のない交差点があるが、直進。ここから1キロ先に中牧入口のバス停がある。その直前を右折。すぐに左の細い道に入れば近いが、車の場合は右へ道なりに進む。回り道だが、迷わないので結局早い。ともかく歩く人も車の人も牧丘二小を目標にすればよい。小学校のすぐ先に渡辺商店という食料品店があるが、その直前を右にそれていく道があり、そこに道標がある。あとはブドウ畑の中をぐんぐんと登っていけば、人家も途絶えてコンクリート舗装の狭い道になる。その舗装路も途切れたところで何かの建築工事にでくわした。なんとなく道が不安だったので、現場の人に小楢山の登山道はこれでいいのか聞いたら、そんな山は知らないとの返事。それでも他の人に聞いてくれて間違いないことがわかる。いつもながら登山口の発見には苦労する。地元の人でも興味のない人には聞いてもわからない事が多い。

その現場から道は急に悪くなった。すぐに道は二手に分かれるが、そこに少しスペースがあったので車を置く。分岐を右に歩き出すが、道はさらに荒れていて、オフロード車でないとこの先は入れまいと思う。10分程で座頭塚がある。そこからすぐ、右に白い貯水タンクがあって、道は左へカーブするが、そのカーブの所から森の中へ道が分かれている。これはきっと林道のバイパスに違いないと短絡的に地図も見ないで決定。ずんずん入っていく。林道の入口付近から目についた、地籍調査と書かれた赤いプラスチック製の杭がこの道にも点々と続いている。杉や桧の植林の中をいい道が続く。バイパスにしてはなかなか元の林道に出会わないなあ、と思っているうち伐採地に飛び出した。この間15分。やっと地図を取り出す。

完全に道をはずしている。当初の予定は、母恋しみちを登り、小楢峠から小楢山ピストン。幕岩、大沢の頭を経て、父恋しみちを降るという周遊コースだった。

ええい、ままよ。このまま登ってしまえ。なんとかなるさと、しぶるサブリーダーの尻を叩く。苗木の中を小気味よく高度をあげると20分足らずで右の尾根に乗る。背中には富士が大きい。さらに15分で尾根が小広くなって下り気味になる。腰をかけるのにいい切り株がいくつかあって小休止。大沢の頭から小楢山にかけての稜線が大きい。松がこんもり茂ったように見えるのが幕岩だ。左の奥の妙見山の横には南アルプスが顔をのぞかせている。ここから10分で小楢山から東南に派生する尾根に乗る。

実は、ここまで自信を持って歩を進めたのも、以前、小林経雄さんの本(富士の見える山.新ハイキング社)で小楢山から杣口雲法寺へ降る踏み跡があることを知っていたからで、これがすなわち小楢山東南尾根である。

さてここからは俄然薮っぽくなる。10分程で踏み跡が左に分かれるが、ここは尾根を外さないように直進。急登わずかで恩賜林界の石杭のある尾根に乗る。ここからは例の地籍調査の杭と入れ替わるように恩賜林界標が頂上へ誘ってくれる。ここから頂上までは300メートルの一気登り。途中直登不能の岩場があるが、ここは南から巻く。この辺りからツバメオモトが多い。あまり人に知れると盗掘されるので内緒にすることにした。ちょうど花をつけていて、可憐なことこのうえない。 やっと頂上、錫杖ガ原だ。もう1時半。腹が減って動けない。すぐに昼食。

腹が一杯になって眠くなる。寒くなって目が覚めると、空には雲が垂れ込めている。まだ寝ているサブリーダーを起こして出発。もう3時近い。

小楢峠で母恋しみちを見送り、尾根の西の巻き道を辿る。鎖を伝って幕岩によじ登ると眺望絶佳。甲州の名だたる山のそろいぶみである。時間がないのと寒さでトカゲは断念。

ここから大沢の頭へは一投足。新しい四等三角点がある。父恋しみちは東南へ急降下。15分程下った所の薬石門と標識のある岩を東側に回りこんで、次第に沢沿いに降るようになる。ところどころにお地蔵さんが座っている。1時間足らずで母恋しみちと合流。あとはのんびり林道を降るのみだ。

ケガの功名でいい道が発見できた。さて、この道に名前を付けなければならない。これを、いつも私のわがままな山行をサポートしてくれている我がつれあい=サブリ−ダ−に謝意を表して「君恋しみち」と勝手に決定した。あしからず。

1992年5月26日

林道分岐(15分)貯水タンク(15分)伐採
地下部(45分)東南尾根(30分)恩賜林界尾
根(45分)頂上(15分)小楢峠(15分)幕岩
(10分)大沢の頭(15分)尾根を回りこむ
(40分)母恋しみち合流点(40分)出発点

二万五千分の一地形図=川浦、塩山

アドバイス

12月現地再訪。第一級の登路である事を
再確認した。頂上まで標識は皆無。地図、磁
石は必携。夏季は多少薮が深くなろう。建設
中だった建物は、ORCHARD VILL
AGE[fufu]といい、12月15日オ
ープン。牧丘町の物産で作り、食べ、遊ぶ施
設。駐車場があるが、あくまで利用者専用。
登山者の利用は要事前連絡(0553−35
−4422)。この建物から林道分岐までは
約10分。バス利用者は山梨交通塩山営業所
(0553−33−3141)。父恋しみち
は各ガイドで書かれている程荒れてはいない

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