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金峰山

山梨の県都甲府あたりの住人は、おらが北山を奥秩父と他国の名前で呼ばれるのをかねて苦々しく思っている。誰もが認めるこの山地の盟主金峰山が甲府市内の最高峰なのだから無理もないが、さりとてできてしまった地名は今さらどうしようもない。先ごろ秩父多摩国立公園に「甲斐」の字を加えさせたことで、まあ勘弁してやろうということになった。

甲府市は、金峰山を源に南下する荒川の両岸に沿う、南北に細長く東西にごく狭い町である。つまり、甲府市民は金峰山の恵みの水で暮らしているようなものだ。市街地からは前山にはばまれまず見えない山だが、甲府盆地の南側あたりから望む姿、特に冬、黒い森の奥秩父の山脈にあって、わずかに森林限界を抜け出た、決して鋭くはないがぐっと力強く盛り上がった白い雪の頂稜は、造物主の絶妙の配慮でその頂点に置かれた五丈岩をアクセントに盆地の北のスカイラインをきりりと引き締めて間然するところがない。まさしく甲斐の北鎮にふさわしい。   

また、私の住む県北西部からの金峰山も絶品である。五丈岩を頂点とした堂々たるピラミッド形のみならず、冬の早い西日を照り返して、前衛の瑞牆山ともども全山が鈍く金色に光る有様は文字通りの金字塔で、思わず見とれることがある。山名は大和きんぷせん金峰山に由来するのが通説と聞くが、案外この山姿そのものによるのではないかと思わせる迫力に満ちている。

古人がこれだけの山を信仰しないはずはなく、甲州側九口、信州側一口の参詣路があったという。行者の姿こそ今では見ることもないが、登山道のほとんどがかつてのそれを踏襲していて、道沿いの地名や遺構に往時を偲ぶことができる。

私がはじめて金峰山に登ったのは、学生時代以来十年ぶりに山登りを再開した年のこと、晩秋の大快晴の日だった。その前週、これもはじめて瑞牆山に登った私は、頂上から見上げた金峰山に、よし来週はあれに登ろうと決めたのだった。

森林限界を抜く、久しぶりの高山らしい山。砂払の頭で森を抜けると、五丈岩に向かって胸のすくような豪快な岩稜の登りとなった。瑞牆山なぞはとっくに眼下の衛兵でしかない。甲州側の千代の吹上と呼ばれる絶壁から冷た過ぎる風が耳元をかすめていく。たどりついた頂上にでんと置かれた神様の積み木のような五丈岩。すこぶる広大な眺め。私はすっかり金峰山が気に入って、それから季節を変え登路を変えいったい何度登ったことだろう。

今では頂上についてもはじめての時のような感激はない。その代わり、眠たくなるような憩いを感じるようになった。

 ガイド

 東西南北から四本の登山道がある。もっとも手軽なのは峰越林道で大弛峠まで車を入れ、東側から尾根伝いに達するルート。登り2時間半。ただし、峰越林道は冬季中心に半年間は通行止となる。次に北側川上村廻目平からの信州口ルート。登り3時間半。本文で紹介したのは西側瑞牆山荘から登るルートで、奥秩父らしい森と、奥秩父では珍しいアルプス的な岩稜歩きが体験できる。登り4時間。かつての信仰登山では一番にぎわったであろう南側からのルートは、今ではもっとも静けさに満ちている。最奥の集落黒平から歩いたとしたら登り7時間くらいかかる。廃れかかった道なので経験者向き。この四本の登山道を組み合わせ、頂上直下の金峰山小屋に一泊すれば余裕のある山旅が楽しめる。

牧丘町役場(0553)35-3111 川上村役場(0267)97-2121 須玉町役場(0551)42-2111 甲府市役所(055)237-1161

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