山と溪谷社刊の『東京周辺の山350』のために書いたガイドですが、これは最終的な山選びの段階で残らなかったので、幻のガイドというわけです。ともかく、母校の裏山のガイドを書くことになろうとは在学中には夢にも思いませんでした。
文台山 |
●都留市駅 細野→御岳神社→文台山→尾崎山→東桂駅 |
●歩行時間3時間50分・一般向き 体★★ 技★★★ 危★☆ |
円頂ふたつを並べた姿形から『ケツ山』の俗称を持つこの山は、かつては |
名のとおり秘部(峰)だったが、時代の流れか、今や白日のもとに晒されるに |
至った。しかし、お尻のあとに尻尾があるとは出来過ぎの尾崎山まで歩くと、 |
ちと厄介だ。 |
コースの特徴 |
細野から文台山間は道標完備。一方、文台山から尾崎山間には道標はひと |
つもない。奇特な人が木にテープや紐を巻き付けてくれてあるが、さらに奇 |
特な人がそれを回収してくれるので、あてにすべきではない。が、踏跡はだ |
いたいはっきりしている。体★★は体力的には大したことはないから。技★ |
★★は尾崎山まで歩いた場合。文台山の往復だけなら★★。迷うことなく歩 |
く分には危★だけれども、万が一を考えて☆をおまけする。 |
適期 |
好ましい雑木林におおわれた山だから、紅葉の10月中旬から冬を経て新 |
緑の5月下旬くらいまでが楽しめる時季。それ以外の時季も文台山までなら |
ほとんど薮に悩まされることはないだろう。夏にはどうせ誰も登らないから、 |
頂上の木陰でのんびり昼寝をするのも悪くない。その先、尾崎山へははっき |
り言って夏は不適。行く人は相当不敵である。汗まみれ埃まみれになる上、 |
引っ掻き傷も少なからず頂戴することになる。誘われたら断ろう。 |
アドバイス |
水場はないので、あらかじめ用意すること。 |
《コース解説》 |
●登山口(1時間30分→←1時間)文台山 |
バスを降りたら県道と別れて細野川に沿った道を少し歩くと右側の御岳神 |
社の入口で指導標が登山口を示している。地元の老人会によって立てられた |
同様の標がこれから頂上までの要所にあって導いてくれる。鳥居をくぐって |
お堂の右を登るとすぐ林道に出る。林道の屈曲を3度数えると登山道は赤松 |
と杉の暗い林に入っていく。やがて行く手に見える空が大きくなって稜線に |
たどり着く。矢花山の西側の鞍部にあたるここは峠状をなし、上小野への薮 |
くさい道が下っている。ここからはもう紛うことのない尾根歩きである。始 |
めのうち尾根の両側に見られた植林も標高900メートルを越えるあたりから |
まばらになり、やがて好ましい雑木林だけになる。登り着いた標高点993 |
の小突起からは枝振りの良い赤松越しに、三ツ峠山と重なって、低いがなか |
なか根張りのよいどっしりとした尾崎山が見える。左手には御正体山の鋸刃 |
が剣呑な稜線を連ね、行く手にはもう目指す頂上が近くに見えている。順調 |
に高度を上げると、小広かった尾根がやせて登りも急になる。やがて左に鋸 |
刃への踏跡を分け、ひと登りで文台山東峰の気分のよい雑木林の頂上にたど |
り着く。高さはこちらのほうが少し高いが、三角点は西峰にあるから往復だ |
けの人もそちらにも行ってみよう。5分とかからない。どちらの峰も似た雰 |
囲気の場所だが、西峰は北向きに切り開きがあって、都留の町並みや遠く奥多 |
摩の山々も眺められる。落葉した季節なら、林越しの鹿留山のてっぺんから |
富士山がほんのわずか白い頭を覗かせているのがご愛嬌だ。 |
●文台山(1時間30分→←2時間)尾崎山 |
頂上から、北々西にある鞍部までの標高差300メートルがポイント。慎重 |
に下ろう。どことなく尾根状をなした斜面を標高差で100メートルも下ると、踏 |
跡はその尾根から外れて左へ少しトラバースする。あとは丹念に踏跡を拾っ |
て山腹を滑り落ちるように下る。やがて傾斜がゆるむと尾根道らしくなるが、 |
薮がうるさくなる。小野へ下る道は薮に埋もれてほとんど定かではない。こ |
の辺から、左に檜の植林が現れ、尾根道の薮は薄くなる。ふたつのコブを越え |
た先の930峰は途中から巻いてしまう踏跡のほうが濃いが、登ったとして |
も知れている。どちらにしろ、この峰の西で道は合わさる。そこから尾崎山 |
へかけてのゆるやかな尾根は、つい10年ほど前には茅戸に若い檜が風に揺れ |
る、文台山の優美なお尻を振り返ったり、富士を眺めたりといった場所だった |
が、檜が育ち、灌木の薮もひどくなって、そんな悠長なことはしていられなく |
なってしまった。植林地を過ぎると薮はなくなり、尾崎山に着く。赤松混じ |
りの雑木林の中に三角点がぽつんとあるだけの色気に欠ける頂上である。 |
●尾崎山(50分→←1時間30分)東桂駅 |
北西に延びる尾根を下る。途中樅の大木が何本かあったりしてちょっと幽 |
邃な雰囲気。やがて着く、共同アンテナが立てられた場所からは都留市街方 |
面の展望がきく。ここから道は西に方向を変え、アンテナ線に沿って下る。 |
飛び出した所は、古渡の自治会館と消防分団の詰所を兼ねた建物の脇である。 |
桂川を渡って国道を左すれば東桂駅までわずかである。 |
●コースタイム |
富士急行線都留市駅(富士急バス20分)細野バス停(10分→←10分)御岳 |
神社(1時間30分→←1時間)文台山(1時間30分→←2時間)尾崎山(50 |
分→←1時間390分)富士急行線東桂駅 |