雨池(蓼科山・蓼科

納涼山歩きもいよいよ近場では行先を失ったが頭を絞って雨池を思いついた。麦草峠からの往復が楽だが、峠の駐車場は遅い出発では停められないおそれがある。そこでロープウエイを使っての往復とした。

ロープウエイは定員の半分に乗車を制限しているというが、まったくそんな配慮は要らない人数しか乗らないまま山麓駅を発車した。すでに夏の観光シーズンは終わってしまったのだろう。山頂駅では立ち込めていた霧も、縞枯山荘が見えてくるころには行く手に青空が拡がった。

2300mもの高さに居るのに風がなければさほど涼しいとも感じないのはやはり異様なことで、下界の暑さを思い知らされる。雨池峠から東へ下ったのはいつだったのかほとんど思い出せないが、例の北八ツ道で、岩ゴロでごく歩きづらい道だった記憶はそのとおりで、たいした標高差でもないのにバランスの悪くなった今ではおおいに難儀してやっと林道に降り立った。

縞枯山荘付近までは人影も多かったのが、雨池まで足を延ばす人はそう多くはないらしく、雨池峠を出て、また戻ってくるまでに出会ったのはほんの数人だけであった。池畔で見かけたのも対岸のひとりだけで、人のわんさか居る白駒池とはえらい違いである。池畔に森の迫った、幽邃な雰囲気の白駒池がにぎわっていて、周辺が広くて明るい雰囲気の雨池に誰もいないのは、交通の便のなせることだとはいいながら面白い。8月の少雨で、もっと水面は狭くなっているかと思ったがそれほどでもなく、しかし、休むに絶好の浜辺はところどころに広く現われていた。そんな浜辺で長く昼休みをしていると平和そのもので、もう動きたくなくなってしまった。

山口耀久さんの『北八ッ彷徨』の中に「雨池」の項があって、「(池の)北の端に、熊笹に被われた築山のような、かわいらしい丘がある。雨池に行くたびに、この築山の丘をいれて池の写真を撮ってくるところをみると、この丘は自分でもかなり気に入っているらしい」という文章がある。ただ雨池に行ってくるだけでは芸がないので、この丘くらいは登っていこうというのが今回のオマケだった。

崩落で通行止めの大石川林道のバイパスとして、雨池から双子池方面に行くには、この丘のすぐ脇を通る道が整備されており(以前から踏跡はあったらしい)、それをたどれば難なく達することができたが、頂上は、倒木の折り重なったなんの目印もない森であった。70年前にはここがクマザサに覆われた丘だったのだろうか。

当初の、ここから適当に西進して大石川林道へ出るつもりにしていた計画は、その林道が立ち入り禁止になっていたのと、林床を埋めた見渡す限りの笹を見ては断念して往路を戻ることにした。

板橋川左岸尾根(柳沢峠)

10年前、黒川鶏冠山に登ったとき、三窪と倉掛山をつなぐ稜線から東に派生する支尾根に長い防火帯があるのが見えた。東京都水源林では防火帯がところどころにあって、前述した三窪~倉掛山にかけての稜線もそうだし、雲取山の石尾根が代表的であろうか。

これは気持ちの良さそうなところだと早速その4日後には出かけたのだから当時は元気だった。なにせその頃は月の半分は山に出かけていることもあったのだ。行ってみてすっかり気に入り、以来、季節を変え、ルートを変えて10回は出かけているだろう。

昨日の木曜山行で選んだコースはこの尾根を楽しむのにもっとも簡単なもので、水源巡視路を利用する。巡視路は登山道として利用されているもの以外は公表されていないが、立ち入り禁止というわけでもないので、地形図を見て判断できるなら利用価値はおおいにある。

昨日の径は5年ぶりだったが、最近の水害のせいか荒れ気味だった。踏跡が笹に埋もれて判然としないところもある。東京都もここのところ金がなく、整備の財源がなくなっているのかといらぬことを考えてしまった。

いつどこで雨が降るかもしれないといった予報だったから覚悟はしていたが、ずっと霧の中を歩いてはいたもののまったく降られず、左岸尾根を下りだす頃には黒川鶏冠山も行く手に姿を現した。ところが、尾根上にある、私のお気に入りのブナまで行って昼休みとしたとたん降り出した。あわてて木陰に逃げたが、傘をさしての昼休みとなってしまった。

しかし、それもつかの間で、あとは尾根を下りきるまで傘をさすことはほとんどなく、車に戻った直後に再びひどい雨になったのだから、全体的には幸運だったといえるだろう。
八千穂高原(松原湖)

ダケカンバの丘で昼寝とは健康山行らしいプランではあったが、どんよりとした朝の空を見て考えを変えた。れっきとした径を歩くわけではないので草が乾かないようでは濡れてしまうし、のんきに昼寝もできないような天気では楽しめない。

降られても避難できる東屋があって、歩く人は少なく、しかも樹林が美しくて歩きやすい径で、なんて都合の良すぎるところがあるかといえばあるからうれしい。そうです、八千穂高原です。レンゲツツジの頃の週末をはずせばそんな贅沢が許されるのです。それにしてもこの界隈へは最近よく行くね。

なにせ1時間もかからない間に東屋が3棟もあるのだからすごい。そのたびに休んだので、歩いているのだか休んでいるのだかわからない。傾斜はゆるく、径はやわらかく、のんびり登っていくと美しい広葉樹の雑木林から白樺の純林へと入っていく。

ゴールとした八千穂レイクにたどり着いたとたんに雨が降り出したが、そこにはまた東屋があるという間の良さ。途中で出逢った人はたったのふたりだけ。車で来られる山の観光地の歩道は静かなことが多いものだけれど、もうちょっと歩いてやらねばもったいないような歩道である。

鷲ヶ峰(ズミの丘)(霧ヶ峰)

4年前の5月末、鷲ヶ峰に北麓の男女倉から登った。好天と新緑の美しさ、ズミの花盛り、さらには車を使って簡単に登ってばかりだった鷲ヶ峰にきちんと麓から登ったという充実感もあって、今思い返しても、いい山歩きだったなあとうれしくなってしまう(参照)

花盛りのズミが一本立つ丘で昼休みとし、そこがすこぶるいい場所で、これはまた行かねばなるまいぞとずっと頭の隅にはあったのだが、ちょうどおとみ山の誕生祝い山行には最適な場所かと浮上してきた。いくら騒いでも、鹿以外に迷惑をかけない。「ズミの木陰でドンジャラホイ」略して「ズミドン山行」である。むろんこの場合は安直なコースからの寄り道である。

ところが人が集まらなかった。二人きりでは気勢も上がらないから、ドンジャラホイは下界ですることにし、それでも計画は変えずに初志貫徹することにした。問題は天気で、前日の美ヶ原ではすっきりと眺められた展望も、八島の駐車場まで行っても、肝心の鷲ヶ峰すら霧に埋もれて見えないのだった。

霧の中を登って、たどり着いた頂上でも展望は開けず、しかし現地までは行きましょうよと下りだしたとたんに北側の霧が一気に晴れ、浅間連山から霧ヶ峰の核心部までが現れたのである。やったあと歓声が上がったのは言うまでもない。

志を曲げずに来てよかった。「ドンジャラホイ」こそなかったが、ズミの木陰で曾遊の山々を眺めながら1時間ほどを清遊したのであった。

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