殿城山(霧ヶ峰

霧ヶ峰が一年中でもっともにぎわうのは、ニッコウキスゲが咲く頃、すなわちちょうど今頃である。その時季でもなんとか人出を避けて歩けないものかと数々のルートを考えて歩いてきたが、それらもさすがに少々食傷気味だと去年思いついたのが殿城山への新ルートで、去年の9月の木曜山行の計画に入れた。

ところが雨で流れてしまったので、10月の横浜YYグループとの山行のときに初めてそのルートで歩いてみた。これが思った通りの素晴らしい周回ルートで、今度はぜひとも盛夏にもう一度と思ったのが昨日の計画になった。もっとも、どうせニッコウキスゲは期待できないから少しずらして7月のはじめに計画していたのが、この梅雨空続きで2週も流れてしまい、しかしそれが怪我の功名となって、鹿柵の中だけではあったもののニッコウキスゲの盛りと出会えたのである。

もう十余年前、すさまじいばかりのニッコウキスゲの花盛りの年には殿城山の斜面が下から見ても黄色く染まっていたものだが、ちょうど同じ時季だというのにそこには一輪たりともなかった。まあしかし、全山緑に染まった夏の霧ヶ峰はそれはそれですばらしいと思う。昼前にたどり着いた殿城山の頂上でゆっくり昼休みとした。

帰りは車山~蝶々深山のメインコースをはずれて、尾根伝いに歩くつもりだったが、尾根の南側が見えるところまで来ると、草原がニッコウキスゲで黄色く染まっているのが見えた。人出の多い場所では鹿柵を設けてキスゲを保護しているわけである。たとえ柵の中でも、ここまで来て花を間近に見ないのも意固地な話なので、コースを少し変更した。しかしメインストリートへと出たとたんに列をなしてやってくるハイキング客と次々にすれ違うことになった。

車山の東側ではかなり大規模な鹿柵が設けられていて、おのずと群落も広いので楽しめる。鹿柵がなくとも全山キスゲに埋まっていたのを知っている者がそれを言っても嫌味というものであろう。

午後から雷雨があるかもしれないと、早め早めに行動したが、幸いその気配はなく、その代わりに夏の高原の強烈な陽ざしでこの夏初めての日焼けらしい日焼けをした。

麦草峠東・2067m峰(蓼科)

長梅雨で、気温についてはさほど暑くはない日々が続いていたのが、明けたら一気の猛暑で身体の調整がうまくいかない。たまたま木曜日に他の予定がなかったので臨時の計画を立てたが、結局都合がついたのは妙齢のご婦人おひとりだけ、しかし涼しいところを歩きたいという希望は私自身のものでもあるので、それはそれでいいじゃないですか、私とふたりきりでも構わないというのなら水入らずで歩きましょうよと出かけたのだった。

なにせ納涼だから、2000mを大きく下回るような標高の場所を歩くわけにはいかない。しかも人が多いところでは気に入らない、さらには長かったり危険な行程は問題外、となかなか条件は厳しい。

しかし探せば、いい場所はあるもので、地形図を眺めてここはどうだろうと選んだところは諸条件全てクリアしているように思えた。もっとも実際に出かけてみなければわからない部分はあるので、多少は想定外もあったが。

すぐ近くではハイカーや観光客でごった返しているというのに、誰一人と行きかうこともなかった。最初の半分は明るい林道歩きである。想定外だったのは途中にある橋が崩落していたことで、しかしそのおかげで車が来ることは絶対にない。残りの半分はヤブを漕いで登ることになったのは想定内で、標高差100mあまりならご愛敬のうちである。

一汗かいてたどり着いた、目的地としていた小ピークは、ほぼ針葉樹の森ではあるが、さほど密生もしておらず適度に明るい。乾いた苔の座布団もふんだんにある。真夏の休み場としてはこのうえない雰囲気だった。夕方になれば妖精も現れるだろう。

昼下がりの小一時間を過ごすうちには遠くで雷鳴が聞こえ、もっと長居したかったのを、降られても嫌だからと腰を上げた。

八方台の苔の森を歩く(蓼科)

予報では一日中曇りくらいのことだったので安心していたら、朝から雨が降っていた。不思議なことに富士山の方角だけは空が明けていて黒い夏富士がぽっかりと浮かんでいた。

遠路はるばるという人もあることだから現地まではとにかく行ってみようと車を走らせたが、登山口に着いても雨は止まなかった。

苔の森なら雨もまた良し、とはいっても北八ツの例のゴロタ道では滑る岩に気をつかって、苔を楽しんで歩くどころではない。しかし八方台東稜線では例外的にそんな心配はないのがありがたい。雨具をつけて歩き出した。

苔の森に入るころには幸いにも雨もやんで、雨上がりでさらにしっとりとした道をゆるく登って行った。ただでさえ人影が少ないのにこの天気では行きかう人は皆無である。

同じ苔の森でも、白駒池あたりとは印象が異なる。白駒池あたりは暗く、こちらは明るい。昭和40年初頭のガイドブックを読むと、渋の湯から黒百合平へ行く途中の稜線が「無残にも皆伐されて」と書かれている。その後育ったのが今の林で、おそらく白駒池あたりに較べるとずっと若い林なのだと思う。

当初は渋の湯へ下るつもりだったが、これは例の北八ツ道なので雨上がりではなお歩きにくい。柔らかい土を踏んで歩ける尾根道を戻ることにし、行き帰りに苔の森を満喫したのだった。

北八ツ池巡らズ(夕日ヶ丘)(蓼科山)

例年、夏休み明けには山小屋泊まりで出かけることが多かったが、うまい計画が思いつかなかったのと、こちらも少々くたびれ気味だというわけで、久しぶりの北八ツ池巡りで納涼散歩をすることにした。

いつまでも蒸し暑いから、2000mを越える大河原峠まで車が運んでくれるのはありがたい。車を降りるとさすがにヒヤッとした。夏休みも終わったし、予報も良くなかったので人影はほとんどなかった。

これまでの何回かの池巡りは、まず双子山に登ってから双子池、亀甲池と巡って周回したが、今回は逆コースにして、まず天祥寺平へと下る。これが逆だと最後に大河原峠まで傾斜はゆるいが長い登りで絞られるのである。山歩きの最後が登りというのはどうも妙な感じなので、今回はまがりなりにも双子山から下って終わりということにしようと思ったのであった。

出発前に古いガイドブックの地図を眺めていて、亀甲池北西のピークに「夕日ヶ丘」という名前が入っているのに気づいた。その記述からすると、別にピークを指すわけでもなく、亀甲池からの下り道で、この突起の西南斜面に夕日があたってきれいに見えたことから、誰かが名付けたのだろう。どうにも陳腐な名前ではある。

天祥寺平から亀甲池に向かう途中、突如としてこの夕日ヶ丘の斜面を覆っていた笹が途切れて、柔らかい草の斜面となる。どこからでも上へ登っていけそうだ。おそらくかつては全山こんな草山だったのではないだろうか。

これを見たら、ありきたりな道を歩くよりはこのピークに登ってみたくなった。車が故障中とて今回は定員が3人、いずれも木曜山行百戦錬磨のツワモノだから、こういった気まぐれコース変更には慣れっこである。異存はあったかもしれないが、少なくともないふりをしてくれた。

さて、歩きよかったのは最初だけで、上に登るにつれて再び笹が繁茂してきた。縦横に通じる鹿道を適当に拾って頂上に着くと、これがなかなか雰囲気のある場所で、一番高そうなところに背丈に近い笹を分けて行ってみると、「夕日の丘」と書かれた札が木に打ち付けてあった。物好きはどこにでもいるもので、しかしいったいいつ頃の設置だろうか。それにしてももう少し気の利いた名前を付けてやればよかったのに。

このピークで早めの昼休みとして、あとはひたすら笹を漕ぎ、苔を漕ぎ、池など一度も見ないうえに、どうせ展望もなかろうと双子山すら登らずに大河原峠に戻ったのである。平均年齢が80歳を超える参加者からすると、この行程を歩きとおしたのは実にあっぱれな偉業でありましょう。

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