撥岩(茅ヶ岳

「黒富士は全山甲府市に属する山なのに、甲斐市か北杜市側からしか登山道がなかった。そこで甲府市側の麓黒平にある、甲府市の保養施設マウントピア黒平を管理する藤原さんが、かくてはならじと拓いたのが今回登った径であった。」

とは10年前の同じく5月に木曜山行で初めて黒平から黒富士峠への径を登ったときに、この掲示板に書いたことである。

私は沢音が気配を消すのでうるさく感じるタイプだから、沢沿いの径はあまり好まないが、やはり春秋の美しさには格別なところがある。それでこれまで新緑と紅葉に何度も歩いてきた。

担当しているガイドブックでも、以前の版では黒富士に登るのに、観音峠から曲岳を越えてという、オーソドックスなルートを紹介していたが、今の版ではこの黒平からのコースに変更した。10年前に拓かれた当時よりかなり踏跡は怪しくなっているので、わりと初心者が利用するであろうガイドブックにはいささかふさわしくないが、静かな山歩きを好む人には喜ばれるだろうと思う。この日は登山道を整備中のマウントピアの藤原さんに途中で偶然会ったので、また径もしっかりすることだろう。

例年ならもう少し淡い色だろうが、今年はすでに緑が濃い。とにかく緑の洪水の中を登った。青空ものぞき出し、陽光も入って、やはりこの時季は最高である。天気の回復が思ったより遅く、肝心の眺めはどうかと心配したが、黒富士峠ではなんとか富士も見えたし、八ヶ岳も見えた。今回は黒富士峠からは黒富士方向とは逆に進み、撥岩を目指した。撥岩では金峰山の金字塔もすっきりと眺められたのだから文句はなかった。

3.4人も立てば満員の撥岩からは緑に埋まった山々がすばらしかった。立っていると股間がスースーする場所で、落っこちれば一巻の終わりである。

なお、黒富士峠についてはかつてヤマケイに書いた記事があるので参考にしてほしい。http://yamatabi.info/yamakei2011.1.html これは10年近く前の写真で、今では2本のカラマツが育って富士を隠している。


瑞牆山展望歩道(瑞牆山)

天鳥川南岸、クリスタルラインに沿った稜線には植樹祭がらみで整備された瑞牆山展望歩道があるが、せいぜい歩かれているのは金山峠から魔子、または魔子穴くらいまでである。これは当たり前のことで、要するに全体像がわからないからである。いかな遊歩道とはいえ、ただ道標があればいいというわけではない。地図があってこそ計画も立てられるのである。

仏造って魂入れずの典型みたいなものだが、それが幸いして有志にとっては静かな山歩きができるのだから、ずっと魂など入れずにおいてほしいものだ。展望歩道とはいうものの、かつては展望の効いた場所も樹木が伸びているので、一般的には魅力は薄れるばかりだろう。木段などの整備も20年近くを経て、土に戻り始めており、いよいよマニア向けになるのはうれしいことだ。

植樹祭がらみの整備とは別に、この稜線の末端附近には自然観察用の歩道を整備したらしい跡があるのを知っていた。それをちょっと調べたいなという自分の興味もあったのが昨日の計画になった。瑞牆山麓では新緑紅葉が有名なのは本谷川沿いのいわゆる通仙峡だが、カラマツが多すぎるのが玉にキズとはいうものの、地形がのびらかな天鳥川沿いのほうが私の好みである。ことに新緑の美しさは格別なので何度出かけたかわからない。

目的地は魔子穴の展望台とし、行き帰りで尾根筋を変えて周回するコースを設定した。今年は季節が早いので、取り付きあたりでは緑は濃い。早くも春ゼミが啼きだしていたが、まだ数が少ないので蝉しぐれまでにはならない。

尾根の末端から歩きだすと、最初のピークにはいったい誰が使うのかというような立派なあづま屋も現れ、かつてはかなり金をつぎ込んだらしいが、道標は皆無である。ほぼ散っていたミツバツツジは標高を上げるにしたがって花盛りとなり、魔子穴付近ではまだ半分つぼみだった。ここも展望がかなり失われた魔子穴展望台に正午に着いて昼休みとした。

帰りの稜線の白眉はその末端にある。尾根が拡がって柔らかい曲線をえがく。芽吹きの遅いミズナラの純林は今しも新緑の盛りだった。この場所を知っていたので、また行きたいとこの時季を選んだのでもあった。実にのんびりするところである。珍しく動画を撮った。https://www.youtube.com/watch?v=RrFszIzvSO0&feature=youtu.be

終始、ひとりにも出会わないまま山歩きを終え、増富の湯にドボンで健康登山は大団円となった。


大室山(鳴沢)

4月後半以来、ひたすら新緑山行が続いていて、むろんこの時季は広葉樹の美しい山を選んでいるから当たり前とはいいながら、計画を立てるときには思いつかなかった山があとになって頭に浮かんでもくる。そもそも綿密に計画を立てることが苦手というよりは嫌いで、毎度ぎりぎりで計画を立てているせいもあって、要するに木曜山行は直前になって計画変更が多い。もっとも昨今では経済的理由であることも多いが。

昨日の計画は大石峠からすずらん峠への御坂山地縦走だったが、去年の初秋に長尾山と大室山を結んで登ったことを思い出し、またあの周辺を探ってみたくなった。何といっても大室山の樹林は格別だから新緑にこそ訪れたい。参加者にそっちにしようよと提案して変更させてもらった。

樹海の針葉樹林と大室山の広葉樹林との画然とした変化がこの山を歩く面白さで、今まではそれを楽しみに、もっぱら山の北側を歩いてきたのを、今回は山頂から南も歩いてみようというのが新味である。頂上から南の三角点側には、北側斜面にはないスズタケの繁茂の中にはっきりした径があるのは知っていた。しかし、やたらと馬酔木の多い樹林にもさして面白味はなさそうなので今までわざわざ行ってみることもなかった。調べると三角点あたりからは富士の展望も楽しめるというので、今回は大室山を丸ごと楽しむことにしたのである。

昼なお暗いと形容される樹海も好天の5月ならそれなりの明るさがある。実にさわやかな樹海の朝だった。大室山の斜面に入ると踏跡の地面が固くなっていて、それなりの人数が入山しているとみえる。最近ではGPS頼りで登る人が多いだろうから、どうしても同じ場所を歩くことになってこんな現象が起こるのだろう。やがてこれがれっきとした登山道となったとしても、GPSは頂上に向かって直登させようとするので、緩い傾斜でジグザクにのんびりと登れる踏跡にはなりにくい。

今回の白眉は、立ち寄った火口底であった。日本で古来斧鉞の入ったことのない山などほとんどないだろうが、さてここはどうだろうか。人間が何もしなければこんなにも美しい場所になるのだなあという典型であるように思った。これはまた来なければなるまい。

富士の展望などは後回しにして、昼休みはここですることにし、長居をした。その後立ち寄った三角点近くの展望地では雲の中から一瞬富士山が頭を出し、この山で得られる楽しみをすべて楽しむことができた。だがその後、下山時のバラ藪突破には少々苦労させられた。

行き帰りにはこのあたりの一般的な散策路、精進口登山道を歩いた。一般道だというのにただ一人と行きかうこともなかった。

白谷ノ丸・黒岳(大菩薩峠)

一昨年の秋、木曜山行で白谷ノ丸に登ったことは報告に書いたしhttp://yamatabi.info/2016i.html#2016i1、そのわずかあと、横浜YYグループとも同じルートを登り、それを基にして『山の本』の連載の一編にもした。http://yamatabi.info/yamanohon98.html

これはすばらしいルートだと感心して、ぜひとも新緑の頃にまた訪れたいものだという願望が昨日の計画となった。

何日か前から、中止になるかもしれないなあという予報が続いていたのでやきもきしたが、前日になって、これなら何とかなりそうだという予報になったので、近場の山でお茶を濁そうかといささか心が揺れていたのを初志貫徹とした。

珍しく、初参加の人が二人あったり、半年ぶりの参加が二人あったりで、最近としては大勢のパーティになった。それだけになんとか好天になってほしかったわけだったが、青空が拡がるといった劇的な好転はさすがになかったものの、富士山をはじめ、まずまずの展望が得られたし、白谷ノ丸では雨具を取り出すくらいになった雨脚も、黒岳南の美しい樹林の中にいる分には濡れるほどでもなく、ゆっくりと昼休みができたし、大峠へと下るときには、雨もまた良し、という程度の降り具合で、晴れているときとは違った、しっとりと湿った樹林帯の雰囲気を味わえた。茶臼尾根で人に逢わないのは当たり前だが、予報のせいか一般路に出ても他の登山者の姿はひとりも見なかった。

のっけからの急登に苦しめられる茶臼尾根だが、茶臼から白谷ノ丸への、大展望を楽しみながらの爽快な草尾根登りで苦労が報われる。昨日は、今しも山ツツジが満開、ダケカンバは新緑の盛りとあって、この時季の良さをすべて味わうことができたのである。

前回に比べて踏跡が濃くなっているように思ったのは歩く人も増えたからだろうが、無粋な赤テープが目につくようになっていたのは困ったことで、要するに、こういったマーキングを頼りに登ってくる人がいない場所にマーキングをする料簡がおかしいのである。ま、いつも書くように、思想が違うから何度言っても通じないだろうが。http://yamatabi.info/yamakei2011.5.html

初参加のおふたりは、ほぼ山の経験なしだという、それが突然、こんなルートを歩かされてどんな感想をお持ちだろうか。登山道のない山は慣れている人でも疲労度が倍にもなるが、もうこりごりといった感じでもなかったように見えた。さて本当のところはどうだろう。

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