丸山〜櫛形山(小笠原・夜叉神峠

一昨年の9月に計画した櫛形山は、途中で雨がぱらつき出したので丸山に登頂したところで引き返してしまった。櫛形山は小雨くらいならむしろ似合う山なのでもったいない気もしたが、濡れることが大嫌いなので、やめましょうという判断は早かった。http://yamatabi.info/2015h.html#2015h1

櫛形山の真骨頂は丸山から先にあるのだから心は残り、去年も計画に入れたがこれも雨で流れた。そして今年、曇りに雨混じりといった天気予報が直前になって晴れに変化、三度目の正直となった。まあしかし梅雨時ともなれば一点の曇りもない青空ではなかったが、降りさえしなければいいのである。

暗い植林帯を抜け、作業道と交わるあたりのクサタチバナの大群落には驚かされた。どこにでも見る花ではないしこんな群落はなおさら見たことがない。そしてこのあと、登山道のいたるところでこの花の群落を見ることになった。山で咲く花にも時の流れの中での旬の時期があるのだろうと思う。

丸山を過ぎ、櫛形山の名の由来となった、和櫛の背のような稜線歩きが始まると、ところどころに天然カラマツが現れる。稜線の西側はカラマツの植林地で、同じ木が文字通り無数に林立しているわけだが、とても同じ木だとは思えない。この径を歩く人はごく少ないのだろう、ところどころで踏跡が怪しくなるのも好ましい。ときおり霧も巻いて、櫛形山頂稜散策の気分は上々である。

唐松岳で昼休みとしたのは、時間がちょうど昼時になったこともあったが、この先、アヤメ平に近づくと平日とはいえ誰もいないということはないだろうと思ったからでもあった。唐松岳までは誰一人いない山だった。

ところがアヤメ平にも誰もおらず、結局、裸山に向かう途中ですれ違ったふたりだけがこの日出会った他の登山者だった。アヤメ平から奥仙重にかけても、いかにも櫛形山といった山歩きが楽しめるが、アヤメ平以北を歩いてきた身にとっては、鹿柵その他人工的過ぎる径に感じるのは仕方あるまい。鹿柵の中にはこれからアヤメが咲くことだろうが、昨日歩いた丸山登山道ひとつをとっても、それ以上の魅力が櫛形山にはあると思う。

帰りは北尾根を見晴らし台まで下ったが、林道に出る直前、行く手に熊が走っていくのが見えた。長く山歩きをしていて、今までに2度熊らしきものを見たことはあるが、これらはそうだったのではないかという程度で、確実に熊だと見極めたのは初めてであった。あっという間に姿を消したので残念ながら後続の人たちは見られなかった。

入野谷山〜北笹山(市野瀬)

木曜山行で初めて大鹿村に出かけたのは2008年の秋のことで、それ以来足かけ10年に渡って出かけていることになるが、あいにく去年は計画できないで終わった。

木曜山行常連参加者がそれぞれの都合で山から遠ざかってしまい、普段の日帰り山行でも参加しなくなったのに、宿泊山行ではなおさらで、要するに経済的な意味で催行しづらくなったのと、定宿の延齢草を予約するにも、あまりに少ない人数では恐縮だという思いもあったからである。

「今年は行こうよ」と、何人かから引き合いがあったので、そのひとり名古屋のNさんの都合に合わせて計画した。幸いにも方々で手が挙がり、久々ににぎやかな山行になると喜んでいたら、日にちを間違えて計画表に書き込んでしまい、せっかく参加するつもりでいた横浜YYさんが参加できなくなり迷惑をかけてしまった。しかしその日なら大丈夫という人も現れて、結局総勢8人で出かけることになった。大鹿村が初めての人が3人含まれている。

問題は梅雨の最中ということで、予報も芳しくなかった。ところが初日はなんとか曇りくらいで推移するとのことで、行きがけには最近のお気に入り北笹山に登ることにした。

久しぶりにこのあたりの地形図を見たら、いつの間にやら三角点峰に「入野谷山」の文字が書き込まれている。地元が地理院にアピールしたとみえる。その成果か、北笹山手前で大ぜいのパーティとすれ違った。名古屋方面からと聞いたが、ここなら東京よりは名古屋がずっと近い。行きがけや帰りがけの駄賃の山としては最高だろう。入野谷山から北笹山にかけての稜線歩きは絶品である。

こちらが遅い出発だったので、そのパーティと入れ違いでの北笹山登頂だったのは幸いだった。遠望こそないが、昼休みに木陰を選びたくなるくらいの陽ざしはあった。

柔らかい地面は下りこそ楽である。順調に下って一路延齢草へ。大河原の小渋川にかかる小渋橋からは赤石岳もお出ましになって、願ってもない梅雨の晴れ間に恵まれた。

宿の佐藤さんも交え、延齢草での夜の宴は毎度のとおり、おいしい料理に酒も順調に消費され歓談は尽きなかった。誰気兼ねのない山中の一軒宿の夜は楽しく更けていった。


シャクナゲ尾根〜にゅう〜白樺尾根(松原湖・蓼科)

この時期、にゅうと稲子岳を結んで歩くことを何年も続けたことがあった。イワカガミやオサバグサ、またコマクサがちょうど花期だったことと、稲子岳の凹地を知ってからは、八ヶ岳に最後に残った秘境の魅力が加わったからだった。

それらの写真を古い順に見ていくと、花の種類によって咲いていたり咲いていなかったりはするが、これは花期が微妙にずれるているだけのこと、しかしオサバグサやイワカガミが徐々に小ぶりになっているのがわかる。オサバグサにいたってはほとんど見かけなくなってしまった。他の山域で高山植物やキスゲやアヤメなどが鹿の食害で激減したという話は聞くけれども、ここでもそんな影響があるのだろうか。イワカガミに関して言えば、葉が減っているようには思えないのだが。

花が最盛期に較べると衰えたことと、稲子岳の凹地に無粋な鹿柵ができ魅力が半減したことなどで、毎年恒例ということはなくなってしまった。だが、そうはいっても夏になると暑い山は願い下げだから日帰りで行ける山の選択肢は限られてくる。となると、以前に登った山にまた登らざるをえなくなるわけで、しかし同じ山だとしてもルートは目新しくしたいのが人情というもの。

そこで思いついたのがにゅうを麓から登る方法で、白駒池から登ることがほとんどのにゅうだから、登山道は静かに違いないし、シャクナゲ尾根と白樺尾根を登降に使えばほぼ周回コースがとれるし、私にとっては両方の尾根をたどるのは2度目で、それもかなりの昔となっては記憶はほぼゼロで新鮮味もある。

去年2度計画に入れたのはいずれも流れ、今年もまた計画したら、晴れとまではならないものの、雨は降らないだろうという天気が訪れて三度目の正直となった。

八ヶ岳の頂稜を隠していた雲は中腹にあったらしく、そこを抜けると青空がのぞいた。シャクナゲ尾根はその名に恥じぬシャクナゲの多さで、花づきのよい年ならさぞ素晴らしいことだろうと思われる。シャクナゲで有名な山域はその花期にはにぎわうが、ここは穴場ではないだろうか。歩く人が少ないのだろう、地面の柔らかさは特筆すべきで、白樺尾根の分岐からは苔蒸した、例の北八ツの森が続くが、せっかくの深山の趣を壊す、多すぎるピンクのテープが目障りである。

イワカガミやオサバグサがちらほらと現れると白駒池からの径が合し、突然地面が固くなる。にゅうには20人ほどの人がいて、さすがに人気の山である。今年はJRのキャンペーンで長野県が取り上げられ、白駒池あたりの苔の森を散策する吉永小百合のコマーシャルが流れているから、そのせいもあるのかもしれない。

20回は登っただろうにゅうの山頂からの展望に新鮮さはないが、それでも展望が効いたにこしたことはない。北は蓼科山や美ヶ原まで見えたし、南には天狗岳も見えるとは望外の収穫だった。

降りに使った白樺尾根は、シャクナゲ尾根よりさらに歩く人は少ないらしく、途中、倒木に邪魔されたり、踏跡の怪しいところもあったが、下るにしたがって良くなって、傾斜が緩んでからは公園の遊歩道を歩くがごとくになった。ドウダンの群生があるので、そこまでは下から歩いてくる人がいるのだろう。

山から下って、すぐに八峰の湯にドボンとなったが、10周年記念セール中ということで、入浴料が安くなったうえに、無料入浴券までもらった。朝方ラジオを聴いていたら、私、つまり3月生まれは運勢が良く、行ったら得するのは高い場所で、高いビルとか塔とか山がいいでしょうと言っていた。なるほど私に関しては当たったらしい。


カンマンボロン(瑞牆山)

茶臼山には何度も出かけたが天気に恵まれたことはない。そのほとんどが7月だから無理もないのだが、たまには晴れてくれてもいいじゃないかと性懲りもなくまた7月に計画したら、やはり晴天ではないらしい。ところによっては雨にもなりそうな予報である。

参加するのはおとみ山だけなのであっさりと諦め、近場で代替案を考えていて、おとみ山がカンマンボロンに行ってみたいと言っていたのを思い出した。これまで木曜山行では2回、カンマンボロン経由で瑞牆山に登ったことがあるが、珍しくその2回とも欠席だったのである。

午後からは雷雨の予報もあることだし、カンマンボロンだけを目的に行くのもいいだろう、しかしそれだけでは行程が短かすぎるので、かねてたどってみたいと思っていたルートを付け加えることにした。要するに、カンマンボロンにわざわざ遠回りして登ってみることにしたのである。すなわち小川山林道分岐付近を出発点とする。

新緑、紅葉ともに瑞牆山麓の森は常に裏切らない。今はもう真夏ではあるが、濃い緑の下もまたいい。広くて緩い傾斜の林床はあくまで柔らかく、そしてヤブを分けることもないのはこのあたりの森の美点である。それだけにどこでも歩けるから方向だけは確かめつつ進んだ。

みずがきの森公園に入ると大岩でボルダリングに興じる人が何人かいたがカンマンボロン付近の大岩壁を登る人はいなかった。カンマンボロンへの径が一般道並みに固く踏まれているのは、クライマーがかなり通う径だからだろう。カンマンボロンのすぐ横の岩にもまだ新しい支点がたくさん設置されていた。

カンマンボロンは大日如来を意味する梵語で、大岩に縦に並んだ穴がその文字を彫ったものだという説があるためにこの名称があるのだが、よくもこじつけたもので、どう見たって水による浸食である。花崗岩の山にこのくらいの穴はどこにでもある。

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