焼山沢から美ヶ原へ(武石・山辺・和田)

去年の初秋の木曜山行でこのコースを登ったとき、これはぜひとも新緑の頃にもう一度歩いてみようと思った。ところが当日は大雨でどうしようもなく中止、順延したので誰も来ないかと思ったらひとり増えてしまった。といっても総勢4人の小パーティである。

かなりの雨量のあとだから、何度もある徒渉が心配だったが、靴の中まで濡らしはしたものの、渡れないところはなかった。その雨量のおかげで、このコースのハイライトともいえる焼山滝が迫力を増しているのを観られたのは幸運であった。本流を落ちる雄滝の迫力もさることながら、その横の岩壁を落ちる雌滝の背景の新緑の美しさがすばらしい(いまどきは、雄滝と雌滝の名前を入れ替えたほうがいいとの声あり)。

いかにも深山らしくシラビソなどの針葉樹があたりに増えてくると、さしもの沢も伏流に近くなり、苔むした岩の下に水音がするようになる。

森林限界を越える山でもないかぎり、いよいよ森が深まるのがこういった場合の通例だが、やがて行く手の空が広くなって、なんとものびやかな草原へと導かれる。焼山沢コースならではの急転である。

「世界の天井が抜けた」とは三城から百曲がりを登ってきた尾崎喜八が書いた詩の一節だが、焼山沢コースは、北側の暗い森を抜けてくるだけに、その印象がさらに強まるように思う。

大日岩(瑞牆山)

去年の7月に木曜山行で大日岩を選んだのは、金峰山の日帰りでは我々の手に余ると思ったからで、いわば苦肉の策ともいえる計画であった。ことほどさように、大日岩は金峰山の行き帰りにその横を通過するだけで、それのみを目的として行く価値がある山だとは思ってはいなかった。

しかし実際に登ってみて、標高はもちろん、その展望や岩の造形も決して瑞牆山に劣るものではないと認識を新たにした。瑞牆山があふれんばかりの登山者でにぎわっているときも、静けさを保っているだろう大日岩はそれだけでも価値がある。この山だけを目的にして、何の不満もない山だと思った。何より、瑞牆山を眺めるのにこれほどの場所があろうか。

そこで今度はシャクナゲの盛りに訪れてみようと思ったのが昨日の計画となったのである。

去年は帰りに八丁平を経て歩いたが、大日岩の西側から直接大日小屋に下る道標があるのを見て、これを登ってみようと思い、大日小屋のテント場から北に延びる踏跡をこれに違いないとたどってみることにした。

これがいかにも奥秩父らしい森を縫うように続く。しかし踏跡が飯森山の稜線を越えて北に下っていこうとするのを見て、これは大日小屋から小川山に直接登る径だと気づいた。そこで強引に東進、最後はお決まりの藪をこいで大日岩から八丁平に至る径に出た。

結局、北側から大日岩に登ることになった。森をさまよっているうちにいつしか西の空が青くなっているのに気づいていたが、大日岩の西側の基部で風景がぱっと開けたときには、期待していなかった八ヶ岳までがすっきりと姿を見せていたのだった。

ここでお昼とすることにし、ザックを置いて、しばし岩の散歩とあいなった。岩の上に登ると金峰山がのしかかるように大きい。その稜線の面白い形の岩に富士山が重なっている。

今回初参加のFさんがご馳走の数々を担ぎ上げてくれ、それをいただきながらの長い滞在となった。今日もにぎわっているであろう瑞牆山を眺めながら、誰ひとりいない大日岩を独占したのであった。

大日岩付近のシャクナゲはまだつぼみが多い。そこで帰り道は少し遠回りをして植樹祭会場への尾根を歩いてみることにした。これが大当たりで、すばらしいシャクナゲの花が見られたし、ミツバツツジが今年は何年かぶりに大豊作で、しかもその開花が遅かったせいで、新緑の中の至るところが紫に彩られているのは見事というしかなかった。今度は錦秋のころに来ようと早くもリクエストが出たのであった。

深田久弥 山の文化館

木曜山行特別企画「深田久弥・山の文化館への旅」は好天に恵まれた2日間を有意義に過ごした。

山梨県とそのごく周囲しか知らない私にとって、安房トンネルを抜け、栃尾温泉から先は、もう初めて足を踏み入れる土地である。文化館のある石川県にも生れて初めて行くことになった。

朝9時に小淵沢を出て、山の文化館には午後3時に到着した。文化財にも指定されている明治期の建物を文化館として使っていて、その内容にふさわしいたたずまいだと思った。玄関わきにある銀杏の大木がまたすばらしい。天気がいいせいもあって、実にのんびりしたひとときを過ごすことができた。館員の方々にも歓待を受けた。

大聖寺の街並みも何やら由緒ありげで、時間があったら散歩でもすればよかろうが、片山津に宿を取ってあるとなっては、はや温泉に心は飛ぶ。

柴山潟のほとりに建つ片山津の宿では、誰もがすることをしながら夜は更けていったのである。

帰りは糸魚川まで北陸道を走り、大糸線沿いに松本へ出た。つまり2日間で北アルプスの周囲をぐるっと一周したことになる。

ゼブラ山(霧ヶ峰)

初夏の高原を代表する花といえばズミを思い出す。レンゲツツジは絢爛だが少々派手すぎるように感じる。ズミの木に咲く花の数は半端ではないが、純白なのが奥床しい。

去年の7月後半にゼブラ山に登ったときはすでに真夏に近く、緑も濃かった。そこで今年は同じルートをひと月早めて歩き、初夏の高原、ことにズミの花を楽しもうという計画であった。八島湿原からの道標ができてからはこの山を訪れる人も増えたが、北側からこの山に登ろうという人は皆無に近い。

会話をさえぎるほどのハルゼミの蝉時雨の中をゼブラ山の北の広場まで来ると、何本ものズミが花盛りであった。同じく白い花をつけた樹形の良い木はミヤマザクラか。もう目の前にゼブラ山の平らな円錐形がある。

鹿道をたどってゼブラ山に着くと霧ヶ峰の大観が一気に開けた。ここには誰もいないが、物見岩から蝶々深山へ続く道にはジャージ姿の何百人もの中学生らしき一行が長い列をつくっている。

下りにたどる尾根に、数本のダケカンバが目立つ場所がある。去年は下る途中にその木陰で一休みし、なんといい場所だろうと思った。そこでぜひ今回はそこまで行ってお昼にしようと思っていたのである。

「ああ、いいところだなあ」異口同音に感嘆して昼休みとなった。これ以上ないくらいのんびりしたあとは、緑あふれる森をさまようがごとく下った。

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