12.日山
    1995(平成7)年3月20日

この山は別に天王山の名もあって標高1057.6㍍、阿武隈のうちでは大滝根山(1192.5㍍)に次ぐ貴重な1000㍍峰である。山頂の展望もよいと本で読んでからは、いつか登りに行こうと心にきめた山だった。そこで矢大臣山(964.7㍍)と鬼ヶ城山(887.3㍍)をおまけにつけての2日間、お天気にも恵まれて早春の山歩きを存分に楽しんできたのはよいが、さらにもう1つ、とんでもないおまけがついて、なおなお忘れがたい山になった。



上 広い山頂は一面雪に覆われ、麓の田沢、茂原、葛原の村人それぞれが神を祀る3つの神社が点在していた。田沢から登ってきた私たちが詣でるのはやはり田沢の神社であり、それが一番高いところにあるのも嬉しかった。

中 眺めはよく、吾妻連峰はなお真っ白に雪を輝かせていた。

下 初めのうちは正面に日山を眺めて、牧場の中を登っていった。下山も同じ道をたどって田沢におりたが、バスを待っているときに1人のご婦人が話しかけてきて、「どこから来たね」。「東京から」と答えると、「今日の東京は大変だよ」。郡山の駅で夕刊を買うと、こんなことがあってよいものかという大事件が報じられていていた。以後の毎年、3月20日が来てオウムのサリン事件が回顧されるたびに、私は日山を思い出している。よい山で、楽しく登ってきただけに、その悲惨さがなおさらだ。

(2014.5)

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