虎毛山、高松山 
   1982(昭和57)年10月11~13日

「虎毛山 秋田県・1433㍍  奥羽脊梁山脈上の、宮城県と秋田県の県境付近に位置する名峰。池塘をいだいた広やかなお花畑の山頂、ブナやヒノキの原生林におおわれた山腹、そして山麓の温泉郷と、東北の山のよさを凝縮して味わえる。」

「高松山 秋田県・1348㍍  栗駒山の西方15㌔、秋田県の南東端に位置する。山域は主として砂岩からなる地質のため、浸食が激しく、峻険な尾根と渓谷を形成している。沢登りのコースとしても人気のある山だ。すべての登山口に温泉があり、温泉をベースに、ブナの原生林に包まれた静かな山行が楽しめる。」

以上は『東北百名山』(山と溪谷社/1990)に載る虎毛山と高松山の紹介である。この2つの山を結んで歩いたのが、この時の山行だ。なお、2ヶ月前の8月中旬、やはり、このコースを歩こうと出掛けたはいいが雨に降られ、登山口まではいってはみたものの結局は秋ノ宮山荘に2泊しただけで終っている。そこで、なによりも好天を願っての秋の3日間。



上 12日、虎毛山の朝。10日夜の夜行寝台「津軽3号」で11日早朝に横堀下車、朝飯もそこそこにタクシーで赤倉沢の登山口まではいった。すぐ先の道標には虎毛山3.6㌔、高松山13.7㌔。歩きだしてしばらくは霧がたちこめるなかだったが、やがて薄日もさしてきた。3.6㌔の距離ならば、急な登りがあってもそれほど時間はかからない。虎毛山の山頂には昼前に着いてしまった。そして、そこの避難小屋泊まりを予定してきたのだから、あとは湿原めぐりをたっぷりと楽しんだ。「あぁ、いいところだなぁ」。この写真は2日目の早朝、朝日に染まっていく湿原が実にきれいだった。日本晴れの1日の始まりだ。

中 高松山へは見事な紅葉の尾根道が続いていた。「おっ、この強烈な匂いは」と探せばブナハリタケが倒木の裏にずらりと並んでいた。

下 最後の急登をはうようにして登りついた高松山。そこには大山津見命を祀る小さな石社があった。ここから泥湯温泉へは山伏岳を経ていく道もあったが、少しでも短いほうをと小安岳廻りの道を選んだ。泥湯では、宿のオジサンが採ってきたキノコを見ながらあれこれいっていると、おばあさんが「都会もんにしてはよく知っている」と褒めてくれた。1泊お1人5800円の宿賃。ところで驚くべきことが1つ。13日の帰途、バスで湯沢へでたあと「つばさ2号」のグリーン車に乗ったと当時の記録に残っているのである。金額も13300×2と記してあるからには間違いではないだろう。「こんなことあったかい」と家人に尋ねても「忘れた」と答えるばかり。「うーん、あの頃は山でずいぶんお金を使っていたんだ」と、今になってびっくりしている。あるいは「お金はないにしろ、昔のほうがずっと度胸があった」というべきか。

(2013.9)

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