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 富士下山のすすめ

毎夏恐るべき人数が登る富士山だが、そのほとんどが五合目から出発する。つまり、すでに森林限界の上にいる。

下界の眺めは広大かもしれないが、富士山そのものは赤茶けた火山性の砂礫が茫漠と広がっているばかりで、殺伐とした風景である。これがあの八面玲瓏、秀麗の代名詞のような富士山だろうか。富士が登るよりは眺める山だと言われるゆえんである。

人はこの膨大な山の基部をなす森を忘れがちである。車で通り過ぎるだけでは森を味わうわけにはいかぬ。これは現代の富士登山の不幸といっていいだろう。

麓から登る時間の余裕があればそれにこしたことはない。しかしそれも大変であれば、登山とは別の機会に、五合目から下に向かって歩いてみるとよい。富士下山である。

近年修復された、五合目から馬返しに続く吉田口登山道は、古来もっとも登山者を集めた道だけに、大道ともいってもいい幅広の道が延々と続き、途中には往時の殷賑をしのばせる数々の石碑や遺構が次々に現れる。

だが何より、果てしもなく広がるこの森の豊かさはどうだ。思いもよらないような深い沢もある。五合目より上の富士山が、この山の一面でしかないことを思い知らされることだろう。

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