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 甲斐の古道を歩く

今どきのガイドブックに出てくるような山道は、まるで登山専用となってしまった感があるが、それらのほとんどは、かつては生活のための道だった。あるものは山仕事に通う道だったり、あるものは交易の道だったり、またあるものは参拝の道だったりした。

山国日本ならばこそ、山は生活道に満ちていた。登山道はその一部を利用しているにすぎない。

車道が車に都合よく造られるのと同様、歩道は歩きやすいように造られるのは当然だが、ことに、歩くしかなかった時代に造られた道の歩きやすさは際立っている。古い峠道を歩いたなら、誰にでもそれは感じられることだろう。

長く使われた歩道は、人の往来がほとんどなくなっても道形が残っていることが多い。足に蹴散らされることなく降り積もった落葉に、ともすれば道は埋もれがちではあるが、目を凝らすと、わずかなくぼみがそれと教えてくれる。道のかたわらに石祠や石仏を見いだし、かつての往来を偲ぶこともしばしばである。

私の住む山梨県には、広葉樹がふんだんに残された中低山が多くある。それらの木々が葉を落としきった晩秋から春、久しく人跡の途絶えた古道をさまよい歩くのが私の愉しみのひとつである。

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