たわらかずおさんのこと 長沢洋 たわらさんの小学校の恩師から、喜寿を記念して瑞牆山に登りたいから案内せよとたわらさんにご下命があった。瑞牆山になど登ったことはなかったたわらさんは、近所に住む私に助っ人をしてくれないかと問い合わせをしてきた。 その頃たわらさんは「八ヶ岳歩こう会」の会員で、会の山歩きの企画で何度か協力していた私のことを知っていたのである。だが、まだ会ったことはなかった。同行を快諾して瑞牆山に一緒に登ったことが今に続くたわらさんとのお付き合いの始まりになる。 その何年か前に大泉に移住してきたたわらさんの目的はゴルフ三昧の日を送るためで、山になど登る気はさらさらなかったらしい。「歩こう会」に属したのもゴルフの成績をあげるための脚力維持が目的だったのではないかと疑われるわけだが、こんな土地を好んで移住してくるのは山を憎からず思っているのは間違いなく、いずれゴルフ場の芝の上を歩くだけでは物足りなくなるのは必然であっただろう。この瑞牆山登山が本格的な山への目覚めになって、以来連綿と山歩きが続いているのである。 それが2004年のことだ。この年は、私がその前年に月に1度山に登る計画を立てて人を募集していたのを毎週の行事にした年で、これが今に続く木曜山行である。そんな偶然もあって、たわらさんが木曜山行の常連になるのに時間はかからなかった。 たわらさんの趣味のひとつにカメラがあって、退職したとき自分へのほうびにと、まだ出始めたばかりで数十万円もしたデジタル一眼レフを買ったくらいだからその財力と意気はたいしたものである。しかし何しろ今ではおもちゃのカメラでももっと多いだろうという画素数しかないカメラだったから、むろんそのカメラはあっという間にゴミ同然となったわけだが、それにもめげず新製品情報に目を光らせて、私が知るかぎりでもその後五指に余るカメラを買っているはずである。 新しいカメラが欲しくなると万引きしたくなるほどだと聞いたが、まだ実際に犯行に及んでいないのは最近のカメラ店のセキュリティが万全なおかげで、晩節を汚さずに済んでいるのは幸いというべきである。若さとは結局のところ欲である。そんな物欲を持ち続けていられるのも、たわらさんの見た目だけではない若さの証左だと思われる。 「たわらかずお山歩き写真集」について 山に写真はつきもので、もともとの趣味であったカメラが生かせたこともたわらさんが山歩きに執心するようになった理由でもあっただろう。10年も山を歩けば木曜山行やその他、私と一緒だった山々で撮った写真だけでも膨大になるだろうから、その中から選んでロッジ山旅のサイトに掲載してもらえないだろうかと頼んだのが実現することになった。 私も写真は撮るが、当然ながら自分自身を撮ることはない。ところが、たわらさんから届いた写真を見ると、これも当然だがその多くに私が写っている。10年前なら髪の毛の量や腹の出具合も違うし(むろん今は見栄えの良くないほうに変化している)、着ている服や装備も違う。初めて見る写真も多い。これらに記憶をよみがえらされ、また、触発もされたことを私が小文にして添えていこうというのがこの写真集の成り立ちである。 たわらさんの自信作ではあっても、山そのものをとらえた写真はむしろはずされ、一緒に登った人たちに重きが置かれていることに注目してもらいたい。その意味ではごく内輪の人だけが思い出を楽しめるだけかもしれず、ひろくインターネットで世間に発信することはないかもしれないが、なに、そんなのはかまったことではない。内輪で楽しめれば十分である。 (2014.10) |