右の小さい画像にマウスを置くとメインの画像と入れ替わります   

        鳥坂峠〜黒打ノ頭 2013.3.21



このときには釈迦ヶ岳の手前で降ってしまったが、この山は1987年に私が8年ぶりに山歩きを再開したときに最初に登った山だから想い出深い。それから何度登ったか数えきれないが、もっとも印象に残っているのは、ある年の暮れのことだった。

檜峰神社から車道を東に少し下ったところから釈迦ヶ岳の西の鞍部へ通じる径が御坂町によって整備されたばかりで、今ではどうなっているのかは知らないが、当時は、整備したといっても、浅い沢伝いで足元は悪いし、踏跡に赤布で行く先を示す程度の、とても一般的とはいえない径だった。

それを一度登ったことがあったので、こんどは下りに使うことにした。日の最も短い頃で、すでに薄暮と言ってもいい時間になっていた。その途中で下から登ってくる青年とすれ違った。

それが山姿でもあったのなら、これから山に登ろうという時間ではないとはいえ、さほど不気味ではないのだが、ダッフルコートに手提げかばんという、街中を歩くような風体なのだから違和感が半端ではなかった。すれ違いざま、あいさつくらいはしたはずだが、向こうがそれに応えた記憶はない。

まあ、林道からの入口には一応道標もあるし、そこまで車で入って、ちょっと登ってみようかという気になったのだろうと思った。しかし林道合流点には車はなかった。そのまま国道まで林道を歩いて下ったが、途中に停めてある車も一台もなかった。要するに彼は国道からずっと歩いてきたことになる。

むろん、その後のことなどわからない。だが、彼はそのまま山から出てこなかったのではないかとも思うのである。

(2018.8) 

木曜山行報告へ
 戻る