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山と溪谷社刊の『東京周辺の山350』に書いたガイドです。これは僕が提出したそのままの文章で、例によって書かずもがなの表現が多いため、編集の段階で(面白おかしく書いた部分は)ほとんど削られています。それはそれ、この方を面白がる人もまたいるかもしれません。個人のガイドブックではないので、仕方ありませんね。実物の本をお持ちの方は較べてみるのも面白いかもしれません。ともあれ、藪山愛好家の隠れ名山だったこの山も、その頂上に立つだけなら、造作もないことになりました。でも尾根伝いに縦走するとなると、興味深いルートがまだいくつもあります。

達沢山と京戸山

●石和温泉駅→石和温泉駅入口 立沢→達沢山→京戸山→京戸林道→県道
●歩行五時間三五分・一般向 体★★ 技★★★ 危★☆

桃源郷が拡がる京戸川扇状地。その詰めの山々は、里から近いにもかかわ
らず、訪れる人も少なく静かな山旅が楽しめる。春、桃色に染まった扇状地
の上に連なる南アルプスの白く長大な山並みを眺められるのはこの付近なら
ではの魅力である。

コースの特徴

達沢山は、山梨百名山に選定されたおかげで(せいで)、立沢から往復す
る場合にはまず心配なく登れるに至った。しかし、京戸山北尾根、京戸林道
を経て帰るコースにはほとんど道標はない。地形図の用意と若干の読図力が
いる。さらに多少の藪は覚悟しなければならない。体★★、林道歩きが全体
の半分を占めるので、タクシー等の利用で★にもなる。技★★★、地形図な
しに登る山ではない。危★☆、コース上にこれといって危険な箇所はない。

適期

紅葉の10月下旬から、冬を経て、新緑の5月くらいまでが適期。雪は少な
い山域だが、京戸山北尾根には残っていることが多いので備えは要る。例年、
桃の花が盛りを迎えるのは4月上旬。この時季に登るなら、このガイドの逆
コースがいい。桃畑と白き南アルプスの組み合わせは春霞の出ないうちに限
る。もっともこの時季、山の上はまだ春遠い。夏はご自由にどうぞ。ただし、
水が5リットル位は要る。

アドバイス

タクシーを使う場合、逆コースで京戸林道に乗り入れる方が、以前より路
面状況が良くなっていることと、下山してからのバスの便が立沢のほうがい
いことで有利だろう。釈迦堂PAを通る中央高速バスも利用できるのでは。

《コース解説》

●立沢−達沢山(2時間→←1時間40分)

立沢のバス停の少し手前に達沢山を示す道標が立っている。大きく山が削
られた採石場に向かって金川を渡る。採石場の入口を左に見て、山へ向かっ
て続くのが達沢林道である。狭い道だが、かなり奥までコンクリート舗装が
されているので、タクシーもある程度は入ってくれるだろう。沢の右岸に続
く林道は何度か屈曲を繰り返した後、左右に分かれる。道標が達沢山へは左
を示している。右へ少し行くと沢で水が得られる。さらに荒れた林道は北へ
向かい、まもなく終点となる。終点からそのまま沢沿いに伸びるのが今や道
標の完備した達沢山への道で、林道終点の崖の上に続く踏跡は達沢山南尾根
に出るもので時間的には早い。だが、ここでは一般的な前者を登ろう。道は
すぐに沢を渡り、ヒノキの植林の中に入っていく。尾根に出るまでは終始こ
の植林後20年ほどたったヒノキ林を登ることになる。したがって展望はな
い。標高差300メートルほどをこなして飛び出した所は達沢山と京戸山三
角点との鞍部である。西へあとひと登りの達沢山の頂上は山梨百名山の標柱
が立つだけの何もない所で、かつてはよく見えた富士山もヒノキに邪魔され
るようになった。木の葉の落ちた時季なら樹林越しに甲府盆地を巡る山々が
望める。晴れていれば、遠く北アルプスの白屏風も確認できるだろう。

●達沢山−京戸山(40分→←35分)

先ほどの鞍部まで戻り、藪くさくなった尾根を登ると、ミズナラ林の円頂
にポツンと三角点がある。かつてはここを京戸山とするのが一般的だったが、
京戸川源流の最高点を京戸山とするならば、この次の1430メートル峰が
正しく、最近ではそれが定着しているようだ。代わりに、この三角点峰には
『ナットウ箱山』なる何とも珍妙な名前の山名標が一宮町によって立てられ
ていて、その由来は『一宮町誌』にあるという。そのうち、水戸あたりの納
豆製造業組合が祠でも建てて、納豆の神様を祭るに違いない。京戸山へはわ
ずかに下ったあと、枝振りのいい赤松の多い尾根を登る。頂上は狭いが、富
士山側が開けていて、休むにはいい場所だ。

●京戸山−京戸林道終点(45分→←1時間)

京戸山とその西の1439メートル峰の鞍部付近から北尾根の道が分かれ
る。割合にしっかりした道が南面とうってかわったブナやミズナラの自然林
の中に続く。新緑や紅葉の時にこそ歩いてみたい道である。やがて着く鞍部
(空沢峠)の東側は伐採されて、少し高みに上がれば、大菩薩連嶺が北から
南まで一望でき、ちょっと一服したくなるところだ。この鞍部には道標があ
り、左へわずかに下ると京戸林道の終点である。

●京戸林道終点−県道(2時間→←2時間30分)

ひたすら林道を下るだけである。しかし、甲府盆地を隔てた南アルプスの
絶景ポイントが何箇所もあって飽きさせない。歩き足りぬ人は途中から二本
木山、大沢山、茶臼山と続く尾根をたどるのもいい。水分からは桃畑の中を
歩くようになり、中央道の側道に突き当って左へ行けば、バスの通る県道は
近いが本数は少ない。勝沼か石和からタクシーを呼ぶことになるだろう。

●コースタイム

JR石和温泉駅(10分)石和温泉駅入口バス停(富士急行バス30分)立沢(
2時間→←1時間40分)達沢山(40分→←35分)京戸山(45分→←1時
間)京戸林道終点(2時間→←2時間30分)県道

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