| クラシック 谷川岳一ノ倉沢滝沢リッジ |
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| 国境を超え、時を超えて折々に人を魅了する普遍性をクラシックという。音楽、文学、演劇のような芸術に限らず、山登りやクライミングのジャンルにもそれはあり、その普遍性は体験内容の豊かさに由来する。そのため、登山のスタート地点をどこにおくか、ということは常に問題になる。 例えば、金峰山の甲州側、金桜神社を登山口とするかつての登拝路は、山麓から山頂へと至るコース展開の妙、美しい風光、そのスケールからいっても、山域はもとより数多の登山コースの中にあってクラシックの資格を充分に備えていた。それが車道の開発にともなって猫坂の峠越えが現実味を失った今、かつての表参道を忠実にたどろうとする人は少ない。同じことは空木岳の木曽側、かつての倉本コースにもいえる。 ありがたいことにクライミングルートにはこうした経年変化は考えにくい。その条件は、もちろん登攀内容の多彩さを第一にあげなければならないが、私の好みからいえば、山麓からもよく見えること。例えば、富山平野からはっきりと分かる剣岳西面の剣尾根や池ノ谷右俣奥壁、あるいは、釜無川の谷底から立ち上がる甲斐駒北面の黄蓮谷や北東面の赤石沢奥壁がその典型といえる。ルート自体が山の骨格を成し、しかもそれなりのスケールを備えている。 滝沢リッジは下界から見ることは出来ないが、お馴染み一ノ倉沢出合からの岩壁群の眺めの中にあってひときわ目をひく。スケールと登攀内容、山頂直下という位置からしても積雪期の谷川岳を代表するクラシックだろう。天候にさえ恵まれれば客観的な危険からは守られたルートだが、ドーム下に続く雪稜の雪質が時に問題となる。それは滝沢スラブ上部の草付帯を覆う雪と同様の条件下で生成される乾燥剤のような粒状質の雪で、踏んでも容易に固まらない。実に始末が悪く、ビレイも不安定になりがちで危険極まりない。さいわい私たちが登った時の雪は安定していた。コンディションの良い時には1日で登り切ることも可能だが、1回のビバーグが普通だろう。 最近では、滝沢リッジ登攀の模様をネットのYouTubeなどで視ることができるが、ドーム壁はエスケープするのが普通のようである。クライミングルートには経年変化はない、と思っていたがさにあらず、だった。日帰りで登ろうというのなら、それも分からないではないが、ドーム下でビバークするくらいならば、ドーム壁は登って当たり前ではないか。この壁は滝沢リッジの象徴なのだから。 ![]() 中央左寄りの山頂から力強いラインを描いて本谷に切れ落ちる ![]() 朝日を浴びてドーム壁の2ピッチ目を登る。なんと素手だ ! |